トイプードルの君。
髪を切ったよ。冬も間近に迫って来たから、長さには悩んじゃった。でも君が好きだったロングにはもう、しないかもしれない。鎖骨を10センチも20センチも超えてくると、切りたくなってしまうの。今は美容院の傍のカフェにいるよ。今日のブレンドは酸味が強くて、あまり好みの味じゃない。あとで別のカフェで打ち合わせがあるから、そのときは紅茶にするよ。
君が好きだったペットボトルの珈琲の銘柄は、今も憶えてる。売っていたコンビニもあの頃は憶えていたけれど、今はもう忘れてしまった。月日が経つのは早いね。あれから何度も髪を切ったし、あれから何度だって髪色を変えた。この季節になるとアッシュにしていたけれど、今はもうベージュのラインで落ち着いてしまった。最近通い始めた美容院の担当の女性がとても可愛らしくてステキで、似合うって言ってくれたからそのまま、その色にしてる。たまにはそんな言葉にのってみるのも、いいかなって。
君によく似た髪型の人を見たの。くるくるの、トイプードルみたいに可愛い髪。そう言うと照れて、怒ったよね。今も、そうなのかな。トイプードルを見かけただけでも思い出すのよ。それくらいほんと、似ていたんだね。その実、全然、人懐こくない君は、今。どこで誰と、何をしているんだろう。
犬が好きなわたしは、君と。犬を飼いたかったの。でも君は、嫌がった。いなくなったら寂しい、悲しいって。
あの頃はね、優しいなって思ってた。今でもそれは思うけれど、飼う前からお別れを先取りして悲しくなって、一緒にいることで得られる幸せを知らないほうが、今は。
悲しいと思う。
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『もし、明日世界が終わるとしたらどうしたい?』なんて。そんな話をしたよね。どんな会話をしたか、詳細は忘れてしまったの。君のように、記憶力は良いわけじゃないんだ。こんな究極の質問に絶対の正解などなくて、考えた時々で変わるものだよ。でも、大切な人と、この息の根が止まるまで一緒にいたいのは、変わらないよ。
君の答えがなんだったか、忘れてしまった。
わたしは記憶力が良くないんだ、今も。
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電話には出ないよ。君が何度かけて来ても電話には、出ない。メッセージも返さない。もう終わったことだもの。君はね、どんなに記憶に残っていても、過去の人。出逢う前からお別れを想像して悲しくなれたくせに、馴れ合えばそれができなくなった、君。そんな君を、可愛いと思えるところまで、流れ着いたの。大人になったでしょう。君の好きだったわたしはもう、いなくて。今じゃ君には、もったいないほどよ。たぶんね。
たくさんの嘘になってしまった約束ならもう、光に還してしまったから、氣にせず幸せになって。だからわたしのことも、光に還してね。
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髪を切った。もうロングにはしない。
トイプードルみたいに可愛くて。
不器用で愛おしい、君へ。
flag *** hana
今日もありがとうございます♡
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