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〖エッセイ〗「愛別離苦」

「愛別離苦」という言葉がある。
意味は、愛しい人との生別、死別の苦しみ。

私は幼い頃、母を亡くした。
そんな人達は世の中にたくさん居るだろうし、もっと辛い思いをした人も居るだろう。

「母は、小さい時に亡くなっていて…」
と話すと、返ってくる言葉は大概同じである。

「…悪いこと聞いちゃってごめんなさい。」か、
「ご苦労されたのね。辛かったでしょう」のどちらかである。

私も逆の立場なら、そう答えるだろう。

しかし、そんな答えに毎回思う事は、「勝手に哀れだと決めつけないで。」という事だ。

しかし、実際の所、「母を幼くして亡くしました。」この言葉では、到底片付けられない程の、想像を絶する辛さの中で生きてきた。

主人に言われた事がある。
「花は、人の死に対して弱すぎる。きっとPTSDみたいなモノなんだろうな…。」と。

15年前、「うつ病」を発症した。
原因は愛情不足だ。当時の元旦那は忙しい人で仕事に打ち込んでいた。裕福な家庭だった。子供にも恵まれなんの不自由もない暮らしだった。

でも、私は「愛している人に、愛されている」という実感が湧かなかった。

それが頭の中で混乱を生じて、うつ病になった。2回のODで、自殺未遂をくり返した。

「別れたい」と言った私に、元旦那は、「ダメだ」とくり返した。世間体だったと思う。
実際に別れるまでに、5年掛かった。

別れてからは、徐々に回復し、うつ病も寛解した。

2年後に、再婚も出来た。
しばらくは、バリバリ働いた。
ハードな仕事だったが、仕事が好きだった。

しかし、職場での嫌がらせとプライベートでの問題から、2年半前、私は「適応障害」になった。仕事も実質、クビになった。悲しかった。

それも、今では進行し、「うつ病再発」になった。

悪いことと云うのは、続くもので、私が病気を再発してからの2年半の間に私は先に述べた「愛別離苦」を4人経験した。

特に辛かったのは、母方の祖父母が2人とも亡くなってしまった事だった。
早くに母を亡くした私にとっては、母方の祖父母が唯一、安らげる存在だった。

美味しいものもたくさん食べさせて貰った。
成人式の日には、実家ではなく祖父母の家で、元旦那とお祝いをして貰った。

祖父母の家ではお祝いには、「ソースカツ丼」を食べるのが恒例で近所のお店から出前をとってくれた。

祖母は、エビフライが大好きでその時も、注文して食べていたが、1本食べただけで、「あとは、食べなさい。私はラーメンでいいの。」と言っていた。

この、「私はラーメンでいいの。」は祖母の口癖だった。

お葬式の時、「お近い方から故人様へのメッセージを読ませて頂きます」と、アナウンスがあった後、息子である叔父が書いたメッセージが流れた。

「母さん。一生懸命に働いて育ててくれて本当にありがとう。覚えていますか?子供の頃、月に1度は家族で外食に連れて行ってくれましたね。僕達には好きなものをたくさん食べさせてくれましたね。しかし、自分はいつも、一番安い、うどんか、ラーメンでしたね。そんな所に母さんの優しさを感じていました……」

と、まだまだ続くメッセージでしたが、「あぁ、おばあちゃん、いつも、そうだったなぁ…」と、私も涙を堪えられなかった。

祖母の納棺の時に、そっと祖母の額を触ったらとても、冷たかった。人は亡くなるとこんなにも冷たくなるのか、そう思った。

祖母の時も、祖父の時も、手紙を書き棺に入れさせて貰ったが、どちらの時も涙が溢れてきて紙がぐしゃぐしゃになった…。

普通の人にとっても、「親しい人の死」は耐え難い苦痛である。

しかし、うつ病患者にしてみたら、「生きる希望を失う」程の心の痛みだと思う。

加えてプライベートで、ある2人の大切な人と生別した。もう2度と会うことはないだろう。

詳しくは書かないが、「生きているのにもう会えない人がいる事」と云うのは、ある意味では、死別よりも苦しいのかもしれない。

この2年半のうちに私は「愛別離苦」を4人経験してしまった。

愛する人と離れる事がなによりも、辛いと感じる私が耐えれるのだろうか。

でも、まだ生きている。

食事は1日に1回しかもう摂れない。
ほぼ1日寝たきりになってしまった。
なんとか病院だけは通っている。

希死念慮も襲ってくる。
いよいよ、ダメなんじゃないかと思う日が増えた。

でも、まだ生きている。

もうすぐ、祖母のお新盆がやってくる。
私は手を合わせに行く事ができるだろうか。

「愛別離苦」の苦しみよ。
そろそろ、私の心を穏やかにはしてくれまいか…。

幸せでなくてもいい。
何も辛いと感じる事のない日常を私にください。

幼少期から始まった、
「愛別離苦」の苦しみよ。
愛しい人をこれ以上連れていかないで。

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