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サマージャム'15・上野

学生時代、上野をよく訪れた。20 歳の頃から秋葉原の地下アイドルの店で働き始めてから、店から上野駅まで歩くのが習慣づいたのだ。末広町と御徒町の静寂を抜けて、アメ横の活気が近づいてくるのはお祭り気分で愉快だった。

20〜22 歳のわたしは他人への興味が薄かった。街ゆく人の顔に目をやることがない。もともと街が好きだからなのか、他人を見ないから街を見るようになったのか、どちらが先かは分からない。とにかく、よく街を見て歩いている。上野は顕著で、土日にバイトを終えて歩く道のりは、今も鮮明に焼き付いている。

はじめてきちんと付き合った彼氏がいた。お互いに初めて同士でなにもかもが不器用だった。外で手を繋いだことはほとんどなく、目線があったのもほんの数回だった気がする。

そんな彼と付き合って間もない頃、ふたりで夜の上野を散歩した。公園や美術館はすでに閉まっていて、 寄る場所もなかったけれど、それなりに楽しかった。お互いの姿ではなく、各々好きな景色を撮って遊んだ。ちょっといい感じの写真が撮れたら見せ合って、撮って、の繰り返し。

彼が特に気に入ったと、上野マルイの看板の写真を見せてくれた。夏が近づく気配が感じられる、お祭り前の雰囲気のする、よい写真だった。帰り際、彼が楽しげにサマ ージャムをくちづさんでいて、わたしも後に続いて少しだけ歌った。


なにげなくtumbler を覗いていると、彼の撮った上野マルイの写真が投稿されていて心臓が飛び出そうになった。場所も角度もぴったり一致する。画像とは別に、本文には #summer とだけ書いてあった。 わたしも少し角度の違う場所から撮った上野マルイの写真を、放置していたtumblerに#summerを付けて投稿した。


(書いた人・おにぎりおいしいです)

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