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仙台・ワールドスクウェア

歩いて5分で東北1の繁華街、一番近いスーパーは三越のデパ地下。
大学を卒業して約3年間、私はそんな東北イチの都会で暮らしていた。
仲の良い友達は一人もできず、映画館に行くか、職場の同僚とご飯を食べるかしかやることがない。まあ、映画館があれば上々か。

緊急出勤や夜勤が稀にあるため、職場から徒歩圏内で選んだ1K8畳のマンションは、四方八方をビルに囲まれている。
マンションのエレベーター内で遭遇する住民たちは、セカンドバッグを小脇に抱えたおじさまや、夜のお仕事関係のキラキラした若い男女が多い。
治安が良いのか悪いのか、夜明けまで人とすれ違う通り沿いにある。
というか、仙台は知人とよくすれ違う街だ。住んでみればわかることで、私が特別そういうわけではないと思う。
ちょっと歩けば何でも手に入る便利さは捨てがたいが、悲しい時も嬉しい時も、誰かに見られるリスクを孕んでいる。

「今日『愛がなんだ』観に行きませんか?」
夕方ごろ、今日はレイトショーで何を観ようかぼんやり考えていたところに、後輩から声をかけられた。
『愛がなんだ』は既に2回ほど鑑賞していたが、二つ返事でO Kした。
そこに先輩とスタッフさんも加わって、4人で映画を見に行くことになった。
この映画の好きなところは、岸井ゆきのの表情筋の素晴らしさと、経験したことがないのに懐かしい気持ちになれるところだ。
恋愛の青春の1ページをめくっているような、「あ、あんな時もあったね」と笑顔で振り返れるような感覚が好きだ。

それぞれ徒歩圏内に住んでいる私たちは、駅前から続くアーケード街を歩いて帰った。
映画の感想を話し合いながらワイワイ帰る。大学生の集団とすれ違うと、男子大学生がこちらに気が付き手をあげた。後輩に近づいて親しげに話し始めた。
「お〜!タカシ!あれ?タカシじゃなかった…スミマセン」

程よい速度で皆が歩くアーケード街で、時より、知らない人があの人に見えてドキリとすることが何度もあった。
誰かに見られているようで心地悪い、けど、誰かと会えるかもしれない、という希望があるのはとても嬉しかった。

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