見出し画像

【歴史総合】知識構成型ジグソー法の授業づくり② / エキスパート資料を作るときに気を付けていること①「史資料の読み解きを重視する」 / 科学的探求学習との違いと共通点

ここでは「知識構成型ジグソー法とはなんぞや?」という点は、他の方の解説に譲るとして、私が知識構成型ジグソー法(以下、KCJ)の授業を作るうえで、気を付けていることをまとめます。

1 エキスパート資料を作るときに気を付けていること①「史資料の読み解きを重視する」

私は教員が講義をしているのを文字起こししたみたいな、出典のないオリジナルな文章をKCJのエキスパート資料の題材にするのは、しないようにしています。史資料の読み解きがミソだと思うからです。

実際のKCJの授業

以下は、私が実際におこなったKCJの授業の1つです。科目は「歴史総合」、単元は「イギリスの革命とアメリカの独立」、MQは「市民革命は、社会をどんな人にとって「生きやすい」社会に変えたといえるだろうか?」です。
単元では、フランス革命は次の単元でしたが、「市民革命」というくくりで1つにまとめて実施しました。フランス革命は「市民」が起こし、「国民」を生んだ出来事ですから、次の単元で再度扱い、そちらでは「国民」の誕生をテーマに設計しました。

ホームとなるワークシート。

  • 授業冒頭にワークシートを配布して、Introductionをペアワークを挟みながら3~5分で読み合わせます。

  • その後、エキスパート活動(個人12分+同じ資料を読んだ人同士の交流3分)→ジグソー活動(10分)→クロストーク10分→各自で(3)の記述(5分)→班内で記述の交流(5分)、と進みます。

次が3つのエキスパート資料です。

資料♥ イギリス革命
資料♦ フランス革命
資料♠ アメリカ独立革命

いずれも、授業者である私が0から文章を書いているのではなく、史資料や教科書の文章を引用して構成しています。

本題に戻ります

既存の文献や図表から読み解かせます。ただとはいえ、既存の文献も中略や注釈など加工をしていますし、図表も言ってしまえば何かしらの目的で誰かが情報を整理したものですから、恣意性からは逃れられません。

また、史資料の読み解きも、文の穴埋め形式にすることが多いです。その意味で教員の思考過程のトレースになっています。例えば、以下の画像は、歴史総合の単元「アジア・アメリカに向かうヨーロッパ」の授業「貿易のグローバル化によって世界全体は「豊か」になったといえるだろうか?」のエキスパート資料♠です。(1)・(2)ともに穴埋めとなっています。

クロストーク時の追加発問次回以降のMQを臨機応変に生徒の現状に合わせて設定することで、生徒とともに授業(学び)を作っている点を強調し、実際にそうしています。

教員の役割は以下です。

  1. 教員が考えてほしいことと、生徒が考えたいことを調和させてMQを設定する。

  2. 適切な史資料を選択・提供し、適切な分担と読み解きの足場がけ(各エキスパート資料の作成)を行い、学習をサポートする。

ただし、講義の文字起こし的なエキスパート資料を用いたKCJも、私は否定しません
授業者なりにKCJを通じて育みたいねらいがあり、それと矛盾しないなら、全く持って問題ないと思うからです。
また文字起こし型のエキスパート資料は、これまで一斉講義をやってきた教員からすると、始めやすい、作りやすいと思います。

2 科学的探求学習との違いと共通点

「教員の思考過程のトレースになっている」という点は、科学的探求学習と同じだと考えています。クラス全員が揃って史資料の読み解きを進めるか、分担して進めて後で対話を通じて組み合わせるか、の違いです。

前者(科学的探求学習)では随時、読み解きの目的と結果(なぜ今この史資料を読み解いているのか?、この史資料の読み解きで何がわかったのか?)を全体で確認・微修正できます。
そのため、探求的な思考の手順、考え方が身につきやすいといえるでしょう。
また適宜、軌道修正をクラス全体で行うので、学習者の能力の差異をある程度問わず、大幅が読み解きの間違いを防ぎやすいともいえます。

後者(KCJ)は、分担するぶん読み解く史資料の総数が増え、より多面的な分析ができます。アウトプット(読み解き、対話、説明)の時間配分などの裁量が比較的生徒にあり、生徒中心の学びになりやすいです。
KCJ実践者なら実感のあることだと思いますが、対話を通じて誤解は実は生徒同士で修正されやすいです。
教員は生徒同士の対話に耳を傾けることで、何を誤解しやすいのか把握できます。

いずれも、一斉講義と比べて、個の価値観に迫って熟考したり、知識と知識の繋がりを考察したりしやすい点が強みと言えるでしょう。裏を返せば、KCJの授業設計では、個の価値観に迫って熟考できる問いと史資料、知識と知識のつながりを考察できる問いと史資料をつくることがまず前提となります。

価値観に迫る実際の授業

以下は、歴史総合の単元「産業革命で変わる社会」の授業「産業革命は、どのような人々を、どの程度「豊か」にしたといえるだろうか?」です。史資料は著作権の関係で隠していますが、問いは見ることができます。この授業では、クロストークで次のことを追加発問しました。ただし、クラスの動向によって臨機応変に変えるので、全クラスがこのままの問いをしたわけではありません。

  • 「工業化が進み、生産が増えること」と、「人々の生活の質が豊かになること」とは、どの程度一致し、どの程度異なるだろうか?

  • 「イギリスは「世界の工場」とよばれ、豊かになった。植民地を拡大して、他国・他地域を抑圧するほどで、イギリス国民は皆ひどいやつらだ」という評価は、どの程度妥当か?

  • (上記の質問について、「イギリス国民全体に責任があるとは言えないと思う」という声が多かったため、)では、植民地で劣悪な環境で働くこととなった人やその家族に「イギリス国民全員に責任があるわけではない。仕方ない」と言うのは妥当か?

  • (上記に続いて、)戦争のときに、ある国がある地域を侵略し、抑圧をおこなった後、「国民全体に責任があるわけではない。上層部が悪かったんだ」と言うのは妥当か?

  • (「資本家が悪い」という声が多かったため、)資本家が「その当時のルールのなかで、出来得ることを実行して自分の会社を大きくし、儲けてきただけだ。あなたも儲けたい欲望はあるだろう?」と言ってきたら、どう返すか?

  • (上記に続いて、)今も私たちは劣悪な環境で働く人の犠牲の上に、安い衣類などを買っている。私たちと資本家の何が違うのか?

  • 経済成長しながら、人々の生活の質を公正に豊かにしていくには、どのような施策・工夫が有効だろうか?

これらの問いを良いと思うか?は人それぞれだと思いますが、個の価値観に迫ることを意識した実践ですので、参考にしてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?