ルーマニアの相続法について


1 はじめに

長らく更新していませんでした。これは9月(8月下旬)から10月8日まで、蒲新明宮例大祭の準備及び本番に忙殺されていたためです。

今年度は、町内の祭典総監督をやらせていただきました。
詳しくはYOUTUBE等で「蒲新明宮 祭り」で検索してください。

2 ルーマニア新民法典について

ルーマニアでは、EU加盟のため、2004年から民法(私法)の再制定に向けて進め、2009年に新民法(Codul Civil)が制定されました(2011年施行)。1864年民法は,フランス法がモデルとするものでした。現行の民法は主にケベック州民法を範とするものであり(大陸法(ローマ法)の順序に適しているため。),フランス民法,イタリア民法,スイス民法,EUのルール等も取り入れされています。

そこで、今回は、ルーマニア民法典の相続法のうち,無遺言の場合(遺言や、遺贈(信託)等を除きます。)について,下記の参考文献を前提に,ごくごく簡単にメモをしたいと思います(注1,2)。

3 日本での適用の場面は多くない…?

(1)日本でルーマニアの相続法が問題となることは少ないかもしれません。というのも,日本でルーマニア人が死去した場合,ルーマニア法が準拠法になるのではなく,反致によって,日本法が指定されることがあるためです。


(2)つまり、ルーマニアの相続に関する国際私法規定である

①ルーマニアが加盟するEUのEU相続規則及び

②同国民法中第2633条以下(これは,EU規則に対応したものだそうです(注2)。)

はいずれも,被相続人の常居所地法によるとしています。そのため,上記のケースでは,日本法が準拠法となります(例外有)。

4 規定の概要
(1)相続開始時

 死亡時(第954条)
被相続人の相続人となる者が,同時死亡(死亡の前後が不明)の場合には,Aは相続権を失います(第957条2項)。ただし,この規定は,抽象的であり(同時の危険で死亡というような要件もありません。)解釈には種々あり,相続能力の問題(及び代襲相続)で処理されるようです。

(2)相続能力


ア 相続開始時に存在している者になります。

イ 相続無能力については,絶対的無能力者,司法による無能力者があります(被相続人は無能力者につき,生前に,遺言または公的な書類で遺言により相続人とすることが可能です)。


絶対的無能力者の例としては,相続人を殺害する意図を有して犯罪をなした相続人や,相続に先立って他の相続人の相続分を減少させるために他の相続人を殺す意図で犯罪をなした相続人等です(第958条1項2項)。これらは法律上当然に相続人となりません。

また、司法による無能力者としては,物理的精神的暴行を被相続人に故意に行った刑法犯や被相続人を死に追いやった(故意犯に限らず)者,遺言を隠匿破棄等した者,被相続人の遺言の作成・変更・撤回を妨害した者です(第959条1項ないし3項)。司法機関により認定されます。

(3)代襲相続


解釈論上,被相続人死亡前に死亡した者の卑属に限るという見解と,亡くなった無能力者の卑属についても,相続権が認められるという見解があります(同国では代襲の問題を相続無能力の問題と関連して論じられています。)。今回の民法では、相続無能力者の卑属にも代襲相続が認められています。

(4)法定相続分
生存配偶者の相続分と相続方法が新たに立法化されました(第970条以下。)相続分については以下のとおりです(第970条1項aないしd。各順位間は等割と考えられます。)
  ア 順位1:被相続人の卑属の場合
    生存配偶者4分の1,その他相続人合計4分の3
  イ 順位2:特別な尊属及びその他親族(注:定義は割愛します)の場合
    生存配偶者3分の1,その他相続人合計3分の2
  ウ 順位3:特別な尊属のみ,又は,特別なその他親族のみの場合
    生存配偶者2分の1,その他相続人合計2分の1
  エ 順位4:通常の尊属又は親族の場合
    生存配偶者4分の3,その他相続人合計4分の3
(5)生存配偶者の同居権
日本の相続法改正の議論でもあがっておりますが,1944年319号法で,生存配偶者については,ルーマニアにおいては相続前の住居への居住が認められていました。新民法でも同様です(第973条)なお,負担付権利ではなく,無償で居住できる権利です。

(6)相続承認期間
ア 日本との違い
日本では,相続放棄する期間を設け,期間が経過した後は相続を承認したことになります(また,法定の承認行為等により,承認されたことになります。)。

一方で,ルーマニアは,旧法がフランス法の系譜であり,債務の承認は明示でも黙示でもいいのですが,期間を経過すると,承認できなくなり,相続ができないことになります。つまり,日本と規定が逆になっており,放置すると承認できないことになります。

イ 承認期間(第1103条)
原則として相続開始から1年間(ただし,①相続開始後に相続人が出生した場合には,出生日から1年(相続時に胎児等),②死亡宣告等がある場合は当該死亡の擬制が登録された日から1年,③認知や家族関係を知った日が相続開始後であればその日から1年)
その他例外的に延長する規定もあります。

ウ 相続放棄の推定
日本の単純承認等とは別に,ルーマニアでは,相続放棄の推定(反証があれば別)の規定があります。

(ア)相続人が相続開始を知りながら,承認期間内に相続承認を表明しな い場合(第1103条,1112条)
(イ)裁判所の定める期限内に相続の承認をしない場合(第1113条2項)

ルーマニア法が準拠法になる民事・家事案件のご相談は(予約制で)承っております(ただし在留資格・入管事件は,現在,一時扱っておりません)。

(注1)
参考文献:“New Civil Codes in Hungary and Romania”(Edt.Attila Menyhárd,Emőd Veress,Springer(2017))
(注2)、ルーマニアではありませんが、中東欧諸国の民法については、日本比較法研究所翻訳叢書70も参考になります。
(注3)「ルーマニア国際私法の改正について―新旧法の比較検討―」(笠原俊宏,東洋法学57巻1号279頁以下)

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