フランスの相続に関する国際私法規定について

<ロースクール生(国際私法選択者)向け>

EU相続規則がフランスでも昨年の8月15日から発効しております。 例えば、日本に住所を有するフランス人が日本で死亡し、日本国内で相続が問題となる場合、EU相続規則も問題になるのですが、これについては最後に述べます。

このノートでは、それ以前のフランスの国際私法のルールについて述べたいと思います。

1 EU相続規則発効前のフランスの国際私法について

(1)原則として被相続人の最期の住所地というルール

これは、純粋な国内事案に適用される法規定である民法720条がベースとなるルールです。

(720条 死亡による相続は、死者の最後の住所地にて開始する。)

(2)不動産については不動産の所在地法というルール

これは、民法3条2項(これは国際私法規則です)によるものです。また、フランス国内に外国人が所有する不動産があったとしても、フランス法が準拠法となります。

(3)つまり、日本のような一つの連結点(被相続人の国籍)で相続の準拠法を統一的に決める(国際私法における相続統一主義)のではなく、財産によってことなる準拠法ルール(国際私法における相続分割主義)を採用していました。

2 判例法

(1)判例(破棄院)は、上記1(1)の「最後の住所地」について、

①実際に最後に居住して死亡した場所でなくとも、納税、郵便送達地、所属、市民登録等から別の国が最後の住所地とし(破棄院第1民事部1963年6月19日 332号),

②フランス人が(恐らく長期の)海外での休暇中に死亡した場合、意図的に他国へ本拠を移したのでない限りフランスが最後の住所地としています(破棄院第1民事部2010年3月3日 09-12180号)。

(2)また、不動産に関しては、フランス国外に不動産がある場合でも、

①その国外の国際私法が被相続人の本国法を準拠法とするルールの場合(日本やイタリアがそうです。)や,

②その国外の国際私法が被相続人の最期の住所地の法を準拠法とするルールの場合 には、その外国の国際私法規定により被相続人の国籍の法を適用する(つまり「反致」する。)。ことになります。

(3)これらは、1で述べた相続分割主義の弊害に対応するものです。たとえば、日本の民法(国際私法ではなく)は、相続が発生すると、 相続人に権利義務が包括移転します。ある国の実質法が、「包括相続主義」を採用している場合に、対象となる財産ごとに準拠法が違うと、当該ある国実質法上の包括相続主義が貫徹されなくなるためです。

3 EU相続規則

(1)日本に住所を有するフランス人が日本で死亡し、日本国内で相続が問題となる場合、日本の国際私法では、

① 被相続人の本国法であるフランス民法が準拠法(通則法36条)

② しかし、この場合、被相続人の本国法が準拠法となる場合ですので、指定されたフランスの国際私法が日本法を準拠法とする場合には、日本法が適用されることになります(いわゆる「反致」。通則法41条1項、これは別のノートである「<ブラジル国際私法の相続規定について>」と同様です。)

③ そして、同規則では、原則死亡時の常居所地の法が準拠法ですので(同規則21条)、日本法で相続人の範囲、相続分、権利承継関係等が決定されることになります。ただし、EU相続規則では、被相続人による準拠法選択を認めており、準拠法選択時に有していた国籍の法(重国籍者の場合いずれも可)を選択できます(同規則22条1項2項)。したがって、フランス法を選択している場合には、反致はせず、フランス法によることになります(準拠法選択の実質要件(有効性)については選択した法にて判断されますので、フランス法で判断されます。同条3項)。

 4 その他

反致によるフランス国内での管轄の拡大、及び上記2(2)①及び②並びに他の破棄院の判例等、詳細は、

http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AA12170670/2013no.27_87_101.pdf#search='%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%A7%81%E6%B3%95+%E7%9B%B8%E7%B6%9A

に詳しいです(本ノートの破棄院判例は、Dr.Sandie Calme(2015) French private international law , Vandeplas Publishing に拠ります。)。

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