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エッセイ 父と息子と 息子編

2008年の冬、息子が生まれた。
彼と向き合う時、いつも父親の姿を思い浮かべる。父親の影は私の中で消える事は無い。

我が家には四年前に娘が生まれており、息子は二番目の子供なので色々な面で気持ち的には余裕があった。
予定日より四週間近く早く生まれた息子は、生まれた当初はなかなか目を開けてくれなかった。
お姉ちゃんの時は、なかなか目を開けてくれないので心配で心配で。でも、ポカっと目を開いて黒く濡れた瞳を見せてくれた時には心底安心したものだ。
息子もどういうわけかお姉ちゃんと同じくなかなか目を開けなかったけど、まあお姉ちゃんもそうだったからいいかぁ、などと呑気に構えることができた。

同世代の子より少し小さな体ながら、すくすくと成長していく息子に対して、自分の父親としての振る舞い、彼への接し方を気にするようになった。
もちろんお姉ちゃんに対しても気になる部分があったが、それとは異質の心の戸惑い。

自分は子供のために時間を費やせているか。
自分は子供たちにたくさんの思い出を残してあげているか。
一緒に一杯遊んでいるか。
自分は子供たちにとって、話しやすい父親か。
自分のせいで夢をあきらめたりしていないか。
理不尽なことで怒ったりしていないか。
暴力をふるっていないか。
しなくていい苦労を掛けていないか。
余計な心配をさせていないか。
…。

私にとって息子は、意識するしないにかかわらず、小さい頃の私だ。
自分が父と一緒に遊べなかった分、彼とは時間の許す限り遊ぶようにしていたので、二人で出かけることがとても多い。
クルマの中で息子の好きな音楽を掛け、いろんな話をして、出かけた先で目いっぱい遊ぶ。
遊び疲れてチャイルドシートで眠る息子を見て、なんて素晴らしい一日なんだろう、と感嘆する。

またある日は、息子が所属するサッカーチームの試合に同行して、下手ながら頑張る息子に声援を送る。帰りの車の中で、二人で大いにサッカー談議に花を咲かせる。
勝って嬉しい時、試合にすら出してもらえず泣きじゃくる息子にかける言葉も見つからなかった時、その瞬間瞬間を二人で過ごしてきた。

それは、父親である自分が、幼い頃に求めた父の姿そのものなんだと思う。

ある時、息子をひどく叱った。自分でも何をそれほど叱ったのか覚えていないような、そんな取るに足らない理由だったと思う。
私は息子の頭を叩いた。少し経って、そんな自分を激しく嫌悪した。そんなことしたら、息子はあの頃の自分と同じになるじゃないか…。
そして、自分の中で渦巻く、結局は父と同じ人間なのではないかという思いに恐れ慄く。

いつも父の影に怯えながら、なりたい父親の姿を思い描く毎日。

息子も成長してくると、だんだん自分の心の内にあることを言葉として出すようになる。
その言葉の端々に、彼の私に対する思いが強く感じられるようになってくる。その思いは、海外で行方不明となり、その後戻ってきた父との話し合いを明日に控えた夜の、私の涙ながらのあの思いに通じる。

子供の、親に対する無垢な愛情は、むしろ親が子に抱く愛情よりも純粋で揺るぎが無い。とりわけ自分でお腹を痛めて産んだわけではない父親という存在は、その子供の純粋な深い愛情に圧倒される。
子供にとって、親が自分を愛してくれないなんてあるはずがない、だからこそ抱くことができる絶対的な愛情は、きっとあの晩、父を許してもいいのではないか、と感じた私の思いになったのではないかと思う。

息子は無尽蔵に私のことを愛してくれている。それをひしひしと感じる。
自分たちが親だから、無償の愛で子供たちを支えていかなければいけない、そう思っていたのだけど、実は違うんだ。
無限に愛してくれる子供たちの愛情を感じつつ、その愛に報いるために彼らが巣立つまで頑張って支えていくことが、親の務めだったりするのかな、と近頃思う。

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これは、私の拙い経験をもとに感じたことなので、全てに当てはまるかどうかは分かりません。
ただ、読んでくださった方がお子さんと接する時に、子供からの愛情を感じられたら、その幸せを噛みしめて欲しいし、逆に親御さんとの関係に悩む方には、それはあなたが親御さんを愛するが故の葛藤なのだと伝えてあげたいです。
私の父のように、子供からの愛を信じることができない不器用な親も中には居ます。それでも、そんな父親でさえ子供であった私は愛していたし、それゆえの葛藤もたくさんありました。
それでも、そんな父親を愛していた自分を受け入れることは、私の中で自分を肯定する大きな拠り所になっています。
親御さんを憎んではいけない、とは言わないです。でも、自分の中でそんな親御さんも愛している自分を、受け入れてあげてくれれば嬉しいです。

最後に、私と同じ子育て世代の皆さんへ。お子さんからのたくさんの愛を受け止めながら、彼ら彼女らのために頑張って生きていきましょう。

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