読めないから「すぐに読みたい!」
2023年下期の芥川賞は九段理江さんの「東京都同情塔」に決まった。選考経過を説明した会見で委員の吉田修一さんは「とても完成度が高く欠点を探すのが難しい作品。芥川賞だがエンターテインメント性が高いので多くの読者におもしろがって読めるような作品になっていて、芥川賞の中でも稀有な作品だ」話したという。おお、読みたくなるではないか。
発表の日の夕刻、私はたまたま池袋のジュンク堂書店本店を徘徊していた。スマホの速報で本作の受賞を知ったのでさっそく立ち読みしてみたのだが、作中作なのだろうか、フォントが入り組んでいる作品であまり食指が動かなかったのである。もし吉田氏のこのコメントまで知っていたらすぐに買っていたかもしれない。
それが、今はさっぱり買えなくなっている。ネットで在庫検索をするとジュンク堂書店池袋店も丸善本店も品切れ。Amazonは新品について「1月28日以降発送」だし、紀伊國屋書店のサイトも「次回入荷予定1月26日」としているから、大慌てで増刷しているのだろうな。
図書館はどうか。掲載誌「新潮12月号」は予約がいっぱいだし、単行本は刊行直後のために「蔵書なし」。
「読めない」となると「いますぐ読みたい!」となるのが人情だ。メルカリを見ると現在販売中なのは3250円から3350円。定価が1870円だから倍近いプレミアがついているのである。もし芥川賞を取っていなければ数千部程度しか売れないだろう純文学だ。版元が賭けに出られない版元を責めるわけにもいかんのだろうが、目端が利いているというか、あざといというか。
あ、電子書籍なら定価ですぐに読めるのか。そうなると「ま、図書館の予約を気長に待つか」という気がしてくる。我ながら勝手なものである。
(24/1/19)
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