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眼鏡

眼鏡を踏んで壊した。大学に行く支度をしているとき、洗面台の前で。足の裏に初めての感触があった。ぱきり、あまりにもさっぱりとした音だった。

眼鏡のレンズが外れてしまったことは前にもあって、その時は自力で嵌め込むことができた。今回もできるだろうと思って落ち着いて拾い上げたものの、フレームがカパカパしてしまって嵌まらない。どうやらネジが外れてしまっていたようだった。焦った。確実に自分の持っているドライバーでは回せないほど小さなネジだった。眼鏡のネジの華奢さと、精密さを初めて意識した。

コンタクトも持ってはいるが、授業のコマ数が多い日は眼鏡の方が快適だし、残り枚数が少ないからオシャレをするときのために取っておきたい。昔使っていた眼鏡を捨てていないから、多分あるはず……と普段は開けない引き出しを開ける。どこに仕舞ったか覚えていなかったのに、すぐに見つかったのは奇跡だと思う。

旧眼鏡をかけたら世界がぼんやりとしていて、そういえば度を強くしたのだと思い出した。

ちょうど先月切れてしまった保証期間と今月の経済状況の悪さをぐるぐると悩みながら登校した。友人に声をかけたけれど、キョトンとされてしまって、「いつもの眼鏡を壊してしまって……」と眼鏡を外して見せる。

鏡で見たときに、旧眼鏡をかけた自分にはあまりにも違和感があった。写真のアプリを旧眼鏡を買った頃までスクロールする。写真の中の自分は同じ眼鏡をかけていた。写真の中では違和感がないのに、今の自分に旧眼鏡はアンバランスに見える。昔の自分と今の自分の違いは髪型くらいしかなく、見た目が大人っぽくなったとも思えない。

先延ばしにしてめんどくさくならないように(そもそも、黒板やスクリーンが微妙に見にくくて困るので明日にはいつもの眼鏡で登校したい)授業後すぐにバスに乗って眼鏡屋さんに向かった。

修理は無料の範囲内だったようで安心した。
待っている間に店内の眼鏡を試着したら思いのほか似合って、次に買い換えるときはこれにしようかなと考えていた。きっと買うときになったらまた迷うのだと思う。ずっと使い続けることと絶対に買わなくてはいけない切実さのない状態で眺める眼鏡は、全部自分に似合いそうに感じた。
店員さんは手際良く眼鏡を直してくれた。外れたネジ以外の不調も直してくれたらしい。眼鏡屋さんで調整してもらった後のレンズはピカピカになっていた。

もちろん自分でもレンズは拭く。しかし眼鏡屋さんで拭いてもらった眼鏡をかけた後の世界の明るさには毎回驚く。

こんな数秒では世界は変わらないはずなのに。

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