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夏の夜の一瞬の夢

8月3日
予定が何もない1日。

目覚ましなんてかけずに寝たので、起きた時にはもう正午だった。後悔なんてしていない、おかげで最近で一番眠れた気がする。

茶漬けの素を和えた和風パスタを昼食に頬張った後、見て見ぬ振りをしていた家の掃除に取り掛かった。風呂、トイレ、台所……こびりついた汚れを丁寧に拭き取っていく。
最後、掃除機で床掃除をしていたらヘッドが花瓶を置いている机の脚に当たってしまった。落ちて割れる、なんてことはなかったが、花瓶にさしているひまわりの花びらや枯葉がパサっと落ちた。掃除機を止め、まじまじと花を見る。もうもらってから1週間が経とうとしているからだろう、草花はすっかりしおれ、そうっと触れてみても潤いを感じない。そういえば、水の減り方も少し悪くなっている。
「もう、そろそろダメか」
今日初めて声に出した言葉は、生活を彩ってくれた花との別れを惜しむ気持ちだった。

諸々の映像編集作業を進め、気がついたら19時目前。夕飯の準備などひとつもしていないが、条件反射的にお腹が減る時間帯になってしまった。米も炊かないといけないので面倒だ。仕方なく家の外へ出て、近所のスーパーに惣菜を買いに行くことにした。
もう夜だというのに、道端で子どもたちが騒いでいた。子どもだけじゃない、大人、というか人の数が多い。何事かと思っているとどこからともなくドーンと大きな音がした。

花火だ。

次の瞬間、わあっという歓声と子どもたちも「すっげ〜!」というはしゃぎ声が響いた。わたしはすっかり打ち上がるところを見逃してしまったが、もうどうでも良い。そうか、今日はお祭りの日なのか。
夏祭りは人も財布も開放的にする。意味わからないビカビカに光る棒とか、ひとしきり遊んだ後は洗面所でしぼんでいく過程を見守る『逆観察日記』対象の水ヨーヨーとか。普段決して要らないが、夏祭りの日にしか手に入れられないそれらをなけなしの小遣いでよく買ったものだ。もっと言えば、そんな買い物をして良い日が夏祭りの夜だった。
私はスーパーの惣菜コーナーで好きな食べ物だけ買い込んだ。餃子やきゅうりの漬物といった夏っぽいものや、大きめのお祭りの露店で売ってそうな春巻きの皮にチーズを巻いて揚げたやつ、そして下戸ながら気分だけでも味わいたい、と缶のコカコーラ。最後にコーヒー味の氷菓をカゴに入れた。お祭りの日の、栄養を無視した無駄遣いフルコースだ。8割茶色い。

祭りの夜の雰囲気は好きだが、夜風ゼロの暑い夏のよるは苦手なのですぐに冷房の効いた自宅に戻った。遠くに聞こえる打ち上げ花火の音は、缶コーラのプルタブから勢いよく炭酸の抜ける音にすっかりかき消されてしまったが、わずかなあの瞬間に『夏』を感じることができたからそれで良い。

夏の夜の自由さを楽しむことができた!

今日の私も100点満点である。

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