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個性を探して三千里

「私、個性的な人が好きだな」

「我が企業が求めているのは個性あふれる人材です」

この社会は人間に『個性』を求める風潮がある。

【個性】とは
①(individuality)個人に具わり、他の人とはちがう、その個人にしかない性格・性質。「―を伸ばす」
②個物または個体に特有な特徴あるいは性格。
(広辞苑より引用)


言葉にすれば簡単なことなのに、これを見つけるまでが茨の道である。
神からの啓示のように「私はこういう人間なんだ!」と自覚を持てることはほぼなく、生活をしている中でなんとなく「ここは人と違う……かも?」とぬるっと気づくものがほとんどだ。したがって、己の個性をしるためには他人との比較が必須であり、気がつくまでに時間を要することがあると言える。

「そんなに面倒臭いものなら、別に無理に個性的である必要はないんじゃないか?」という声も聞こえてきそうである。たしかに、日本人の三大義務は納税・労働・個性ではないし、無理やりキャラクターをつけることも社会的に悪とされている(ex:人工的に作られた天然キャラ)。
しかし、前述の通り企業は、総じて社会は個性ある人間にたいそう魅力を感じているのだ。また個性を持っていると自負する側の人間も、世間からの需要があるだけでなく、「個性があっていいね!」と肯定されて自尊心が上がるなど良いことづくめ。特に『表現者』と呼ばれる職業の人間はこれが欲しくてたまらないのだ、とこんな講釈を垂れている私は思う。『個性的』って代えが効かないってことでしょう? そんなの、この上ない褒め言葉じゃないか!

さて、客観的に見て、2秒で記憶から消える外見をしている私は甚だ個性的とは言えない存在である。……この一文、自分で書いていながらなかなか心の殺傷能力が高いな。
しかし、個性は外見だけでは測れない。見た目が地味なら中身を魅力満点にしちゃえばいいじゃない。でも、どうやって個性は伸ばすんだ?

個性の森で迷子になりそうな日々を過ごしていたある日、友人の映像作家の撮影現場を手伝うことになり、とある音楽専門学校へ訪れた。そこで学校の広報担当者のお話を聴く機会があったのだが、偶然にもこの森の出口のヒントを聞くことができたのである。

「個性って、突き詰めると『好きなもの・こと』に繋がっているんですよ。『〇〇が好き!』って、一番身近なオリジナリティですから」

必死になって自分にしかない特徴を探せど容易くはなかったのに、この言葉を聞いてからすっと気持ちが軽くなった。そうだ、個性って難しく考える必要はないんだ。私の好きなもの・ことが全部私の『個性』だったのだ。
そうだ、好きなものを発信していこう。好きなものやことをできるだけたくさん見つけて、もちづきもちこらしさをより濃密なものにしよう。

こうして、私は惑わしの森からの脱出を目指し、自分の個性を探す精神旅に出たのだった。

まず、自分の一番好きなものについて考える。
私の一番好きなもの、か。即答できる。茶漬けだ。
茶漬けが幼い頃から好きで好きで、今では毎日1杯は食す。その分収集活動にも熱が入り、まともに収入もないくせに1日に1万円相当の茶漬けを爆買い。昨年は年間100種近い茶漬けを食べていた。文筆業のメインイベントとして出店している文学イベントでは茶漬けへの愛と自叙伝を織り交ぜたエッセイ本を製作して売り始める始末。それも、3作だ。

……自分で書いていて気が付いた。個性の中でもこれ、だいぶパンチ強いな、これ。
書くまでは『ちょっと人より茶漬けが好きなだけ』くらいに思っていたが、文章化するともはや狂人ではないか。私はなぜこれを「個性になればな〜」くらいに思って野放しにしていたのだ。『村生まれでのびのび育ったおかげで身体能力が高かったけど周囲の人間もそんなんだったから特に気に留めておらず、ひょんなことから街に出たら自分のその能力に驚かれ、自分の異常な強さに気づいたなろう系少年漫画の主人公』か(長くてくどくて分かりづらいツッコミ失礼)。

このままではただの茶漬け狂である。まあ強めの個性が見つかっただけ2秒忘却フェイスの主としてはありがたいのだが、もっともっと自分を魅力的なものにしたいと欲があるのも本音だ。いろんな面が組み合わさって、私という人間を分厚く、立体的にしてくれるはずだから。
私の個性探しの旅はまだ終わらなそうである。

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