ぼくはスポーツが好きだから、スポーツでちゃんと儲けたい
儲ける発想がなかった日本のクラブ
「スポーツでは食えない」とよく言われてきた。
日本でスポーツに関わる人の収入は、海外に比べても低い。スポーツの仕事が「ドリームジョブ」と呼ばれることはない。野球選手の年俸はたしかに高いけれど、そのほとんども、引退後の再就職にはかなり苦労する。
「スポーツにまつわる仕事」で食べていけるほど、業界自体が儲かっていないからだ。コーチやクラブ運営なんかは、とくに厳しい。
その原因は、クラブの成り立ちにある。
日本のスポーツクラブの多くは「企業部活」からスタートしている。
企業部活は「福利厚生」の一環だ。
「社員が休日に観に行って、楽しめるもの」をつくってあげる。それなら、投資して組織を強くし、稼げるチームにするよりも、運営費を安く抑えられたほうがいい。
クラブの運営は、会社にとって「コスト」。だから「もっと投資して、スポーツで儲けよう」という発想が、長らく生まれづらかった。
「好きなことをやってるから、しょうがない」
スポーツ業界の苦しさは、ぼく自身もずっと感じてきた。
ぼくは26歳まで、プロリーグでバスケ選手をしていた。
リーグ運営会社は赤字が続いていて、ぼくが引退した(正確には半ばクビを切られたわけだけど)すこしあとに倒産した。当時の仲間は、3ヶ月にわたって給料が出ていないこともあった。知り合いのスポーツ関係者のほとんどが薄給で、土日もあまり休めなかった。
「まあ、好きなことやってるし、稼げなくてもしょうがないよ」
みんなそう言ったし、ぼくもそう思ってた。
でも、本当にそうだろうか?
このままでは、スポーツ選手や、スポーツに関わる仕事をめざす人は減っていく。「将来、苦労するから」と周囲に止められる。選手も裏方のスタッフも育たず、競技のレベルは下がり、お客さんも減り、クラブの経営はさらに苦しくなって……。
スポーツに関わる人、みんな不幸になってしまう。
ウェブ業界で経験を積んだあと、ぼくはスポーツビジネスの会社を立ち上げた。起業してからは、「どうすればスポーツ業界が儲かって、みんながハッピーになるか?」それだけ考えて、突き進んできた。
スポーツを「ちゃんと儲かる業界」にするために、ぼくらがどんなことをしてきたのか? まだまだ道半ばではあるけど、今回はそんなお話をしたい。
①デジタルマーケティングでお客さんを増やす
最初にやったのは「デジタルマーケティング」でお客さんを増やすこと。
起業した2015年当時、スポーツクラブのチケットは「手売り」が主流だった。リアルな場でひたすら売るか、営業さんがスポンサーさんに売るか。(いまでも、この販売方法がいちばん効果的ではある。)
デジタルチケット化もあまり進んでいなくて、コンビニで発券する方式。チケットを買ってくれた人の情報はセブンやローソンで止まってしまって、なにひとつクラブ側に入ってこなかった。
完全にアナログの世界。
だからこそ、すごい伸びしろがあるはずだと思った。
スポーツ業界にデジタルマーケティングを広めよう。そうすれば試合にくるお客さんが増えて、クラブも潤うはず。
そう思った矢先、ぼくらは最初の壁にぶつかった。
バーター契約という商習慣
スポーツ業界には「バーター契約」という商習慣がある。
企業がチームのスポンサーになる代わりに、クラブはそのスポンサー企業になにかしらの発注をする。たとえば、新聞社から「1,000万円のスポンサー料」を受けとったら、代わりに「1,000万円の新聞広告枠」を買ったりするわけだ。
お金の動きはプラマイゼロ。実質、なんの経済活動も生まれないことになる。
クラブのウェブサイトも、この「バーター契約」で発注されていることが多かった。地元の制作会社にスポンサーをしてもらう代わりに、サイトの運用や制作を発注する。
制作会社にとっては、利益はゼロ。人が動いてるから、むしろマイナスだ。ただ、地元のチームの実績は制作会社にとって見栄えがいいから、この契約をする会社も多い。
そうすると、クラブ側から依頼が来たとき、企業がモチベーション高く仕事をするのはなかなか難しい。実質「タダ働き」だからだ。クラブ側もそれをわかっているから、いろいろお願いもしづらい。お互いを高め合えるような関係ではなくなってしまう。
そんな業界じゃ、成長するわけない。
だからぼくは「どんなに値引きしたとしても、タダでは絶対にやらない」と決めた。バーター契約ももちろんしない。
タダでやってくれる地元の会社と、東京から来て「お金を払ってください」というぼくら。当然、営業にはとても苦労した。
最初のころは、ふつうの制作会社に頼むと30〜40万円ぐらいかかるLP(ランディングページ)を、3万円という破格でつくっていた。それでも、とにかく結果を見てもらうしかない。「デジタルマーケティングって、こんなに効果があるんですよ!」と、少しずつ伝えていった。
ウェブマーケティングでお客さんが2倍に
ターニングポイントになったのは、Bリーグの千葉ジェッツさんのお仕事。
ぼくらが入る前、千葉ジェッツさんのお客さんの数は、平均で1900人ほどだった。いただいたのは「あと300人お客さんを増やしたい」というお話。
ぼくはそれを聞いて「そんなに目標低くていいんですか? 絶対もっといけます!」と、2倍を目指すプランを出させてもらった。
結果的に、平均1900人だった観客数は、3600人にまで増えた。
4800人の会場が満員になることも、シーズン中に何度かあった。もちろんぼくらだけの手柄ではないけど、仕事は大成功だったと思う。
やったことはなにも特別じゃない。SNSのフォロワーを増やす。新しく「試合の詳細ページ」をつくり、そこに「グルメ情報」や「試合の見どころ」を盛り込んで、チケットサイトに行きたくなるようにする。広告を打って、LPをターゲットに届ける。ウェブマーケの王道の手法だ。
ふつうのことをちゃんとやるだけで、すごく効果が出た。
「スポーツにはやっぱり、すごいポテンシャルがある」と確信した。千葉ジェッツの盛り上がりはすぐに業界で話題になり、他のクラブからも依頼が舞い込むようになった。
②「競技」を超えた「エンタメ」にする
次にやったのは「クリエイティブを充実させる」こと。
デジタルマーケティングでの集客は効果がみえてきた。でも、それだけじゃまだ足りない。そもそも試合に魅力を感じてもらえなかったら「また来よう」とは思ってもらえないからだ。
ほんとうの意味でスポーツを盛り上げるには「会場の中」まで変えなきゃいけない。スポーツを単なる「競技」ではなく「エンタテイメント」に昇華する必要があったんだ。
カッコいいオープニング映像を流す。演出や世界観にこだわる。DJやチアで盛り上げる。そうやって、スポーツの試合がライブのような「エンタメ」になれば、もっと多くの人が会場にいきたくなるはず。
↓ ぼくらの制作ではないんだけど、千葉ジェッツのオープニングはBリーグの中でもよくできているので、ぜひ見てみてほしい!
そこで、ぼくらは自社にクリエイティブのチームをつくり、オープニングや広告に使う映像制作もおこなうようになった。
「もはやマーケティングの域を超えてる」って思われるかもしれない。
でもぼくは、クリエイティブもマーケティングの一環だと思ってる。
クラブを知って、チケットを買ってもらう。クラブを好きになって、また試合に来てもらう。そのために必要なことなら、なんだってぼくらの仕事。それがぼくらのスタンスだ。
カギは「地域に根ざすチーム」になること
さらにカギを握るのが、地域や行政。
映像はもちろん大切だけど、それだけじゃ限界もある。音楽ライブのようなエンタメを目指すには、やっぱり体育館ではなく「アリーナ」の設備がいる。その建設には、行政と街の協力が不可欠だ。
アリーナ建設にかかる費用は、数百億円。決してかんたんな数字ではない。でも「スポーツが盛り上がれば、ちゃんと地元にお金が落ちる」と証明すれば、不可能ではないはず。
日本ハムのスタジアム建設で、地価が急上昇
これに関連して、おもしろい事例がある。
プロ野球の日本ハムは、2023年に札幌ドームから「北広島」という土地に球場を移転する。いままさに、約600億円かけてスタジアムを建設中だ。
北広島は、札幌から快速エアポートで約20分、人口5万人ぐらいの小さな町。なにもない雑木林だったところに、ボーンと広大なスタジアムができる。
実は、このスタジアム建設がきっかけで、北広島の地価は爆上がりしている。
もともとの地価が安かったこともあって、いま北海道の地価の「上昇率」は、人気のニセコをおさえて北広島が1位。
スタジアムのそばには、6,000万から1億ぐらいの価格のマンションが建てられる。すでに大人気で、180戸の枠に対して3,000件ほどの申し込みがきているそうだ。
これはもはや、ただのスタジアム移転ではない。スポーツを起点に、地域をまきこんだ「街おこし」が実現しようとしている。
スタジアムを中心に、マンションが建って、商業施設もできる。もちろん、ファイターズの社員さんも札幌から北広島に引っ越してくる。野球はめちゃめちゃ関係者が多いから、その人たちが移り住むことで、街の人口も増える。
しかも、数億円プレイヤーの野球選手まで引っ越してくるわけだから、街全体の所得も上がる。街の価値が上がり、さらに人やお店が集まってくる。
2023年にスタジアムが完成し、2027年にはスタジアム直結の駅もできる。
スポーツによって、地域全体が豊かになっていく。今後がとっても楽しみだ。
③クラブのスポンサーになる価値を高める
ぼくらの話に戻ろう。
デジタルマーケティングや、クリエイティブのお客さんは、順調に増えていった。ところがしばらくすると、またしても大きな壁にぶつかった。
そもそもお金がないクラブは、支援したくてもできないのだ。
クラブの収益軸は主に「チケットの販売」と「スポンサー契約」。そして、とくに日本のスポーツチームの多くは、スポンサー契約による売上にかなり依存している。
大手企業がオーナーやスポンサーにいるチームは、ある程度お金があるから、マーケティングの予算も用意できた。だけど、特にBリーグのチームやJ2のクラブは、まだまだそんなサイズじゃないところばかり。
いくらいい提案をしても、予算を払えない。
なんとか予算は払えても、クラブの内側でその施策を回せる人がいない。そういう人を採用したくても、やっぱりお金がなくて難しい……。
だったら、スポンサーがもっと増えるような取り組みをするのも、ぼくらの仕事だ。そのためには、企業側が「スポーツクラブのスポンサーをする」ことに、もっと価値を感じられるようにしなきゃいけない。これが次の課題だった。
「ニンニク農家」と「卒業アルバム会社」がつながった
突破口を探していたとき、あるできごとを耳にした。
Jリーグに「セレッソ大阪」というサッカーチームがある。その株主でメインスポンサーでもあるのが、ヤンマーという耕運機の会社。そのヤンマーの顧客に、とあるニンニク農家さんがいた。
ニンニク農家さんは、収穫期である初夏はめちゃめちゃ忙しいけど、閑散期はそうでもないらしい。だから繁忙期に合わせて人を採ると閑散期に人が余っちゃうし、閑散期に合わせると繁忙期に人が足りなくなる。どうしたもんか、と困っていた。
で、同じくセレッソ大阪のスポンサーに、卒業アルバムの会社さんがいた。
卒業アルバムは3月が繁忙期で人手が必要なんだけど、それが終わると人が余ってしまい、困っているらしい。
こんなふたつの話が、セレッソ大阪の営業担当の耳に入ってきたのだ。
初夏が繁忙期のニンニク農家さんと、春が繁忙期の卒業アルバムの会社。「この2社のあいだで人を交流させたら、ちょうどバランスがいいんじゃないか?」と。すぐに話はまとまって、実際に新しいビジネスが生まれたーー。
この話をきいて、ぼくは「これだ!」と思った。
「ふつうならまったく接点がないはずの2社が『セレッソ大阪』というチームを介してつながった。こんなふうに、クラブのスポンサーどうしがもっと自由につながれたら、企業にとって大きなメリットになるはず……」
「そういう仕組みを、デジタルの技術でつくれないだろうか?」と。
スポンサーどうしが繋がれる仕組み
そうして2021年に、『パートナーズシップ』というサービスが完成した。
同じクラブのスポンサーどうしで交流できるコミュニティサイトだ。
「サイトリニューアルの発注先を探してます」「宴会のケータリングを注文したい」みたいな情報を投稿したり、自社の商品を宣伝したり。採用の情報も載せられるし、クラブのファンに向けてクーポンなどを出すこともできる。
これまで「クラブのスポンサーになる価値」を定量的に説明するのは、けっこう難しかった。ユニフォームや会場に社名が載ることは、たしかにブランドにはなるけど、事業に直接むすびつくとは限らない。
でも、このコミュニティがあれば「事業にダイレクトにつながる価値」を感じてもらえる。クラブから企業さんへのセールスもやりやすくなるはずだ。
スポーツでみんなを幸せにする
いま、ぼくらが描くのは、クラブを中心としたハッピーな経済圏。
スポンサーが増えれば、クラブにも余裕ができる。集客やクリエイティブに力を入れられる。そうすればお客さんも楽しいし、クラブもうれしい。
さらにスポンサーどうしがつながって、新しいビジネスが生まれる。雇用が生まれる。人も企業もクラブの周りに集まってきて、ホームタウンに利益を還元する。
スポーツに関わる人、みんなが幸せになる。
壮大だけど、夢物語じゃない。それを実現するために少しずつ、できることを広げてきたし、同じ志をもつ人も増えてきた。
スポーツでは食えない。好きなことをやってるんだから、しょうがないーー。
ぼくらは「そんなわけない!」って証明したい。
スポーツでちゃんと儲けられる。スポーツに携わる人の地位が上がって、優秀な人がどんどん集まってくる。若い人が、安心して好きなスポーツに打ち込める。
そんな未来に向かって、これからも進んでいく。
最後に。
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