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綿谷真歩
2016年10月6日 01:56
前 目次「いいぞ、もっと反抗しろ、少年」 ……それが、父の口癖だった。 父のさながら根なし草のような行動への不満や、自分なりの意見を彼にぶつけたとき、決まって父は快活に笑い、片手を軽く振りながらこの台詞を言うのだった。 これを言われるたびに、父に自分のことを軽く見られているような、所詮子どもの言うことだと馬鹿にされているような、すり抜けられたような、突き放されたような、かわされたような気
2016年10月15日 04:55
前 目次 靴紐を結んで、外に出る。 生ぬるい風と朝の光を頬に感じながら、丹は寝不足で涙が滲んだ目元を軽く擦って、深く息を吸った。それから落とすように溜め息を吐き、こめかみの辺りを押さえる。朝の太陽はまばゆい光を惜しみなく放っていた。 ――痛いような気がする。……苦しいような気がするのだった。息を吸う、それだけで。 父の病が安静にさえしていれば日常生活に支障のないものだということは、数日前