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Twilight of the country(Ⅰ~Ⅲ)

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series/たそがれの國(順不同) 今、黄昏に立ち向かわん!
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2017年5月の記事一覧

文庫版『たそがれの國』

文庫版『たそがれの國』

 こんにちは! いつもお世話になっております、綿谷真歩です!
今日は拙宅にて連載、完結を致しました『たそがれの國』を本にしたよ!というお知らせになります。

 こちらが実物!
 やたらと分厚い450ページ、親指の第一関節ほどまである厚さでお送りしております。文庫サイズ、無線右綴じ。
 内容は本編35話+番外編1話+あとがきという構成になっております。
 こちら( https://www.seich

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バース

バース

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 太陽は澄みきった夜を呼び、その身を地平の果てへと沈めた。
 イリスはヴィアの足を止め、魔の風を喰った青毛の魔獣のその背から地上へと降り立つと、面前にそびえる巨大な山を見据える。深い夜の闇に包まれたそれは、まるでこちらを押し潰す黒い一枚岩のようだった。
 イリスは息を殺したまま、視線を闇を呑み干す岩石から、目の前でぽっかりと口を開けている洞窟へと視線を移す。
「……此処から、すべてが始

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ダスクを越えて

ダスクを越えて

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〈最終章〉
虹の彼方に



 身体の中を、嵐の歌が吹き抜けてゆく。
 イリスは、もう耳には届かないが、しかし遥か背後で奏でられているだろう、自由奔放な音楽をその身で感じながら、ヴィアとアインベルと共に雨上がりの街道を走っていた。
「ねえさん」
 ふと、こちらの胴に両腕を回しているアインベルが小さくイリスに声をかけた。
「どうしたの? アイン、あまり話すと舌を噛むかも」
「うん……あ

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わが名はイリス

わが名はイリス

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〈エピローグ〉
わが名はイリス



「あら、随分賑やかね」
 イリスは草原に広がる黄金の光に目を細めながら、その声に振り返った。
「マリーナ。ごめんなさい、うるさかった?」
「此処が騒がしいのは、いつものことよ」
 煉瓦造りの教会の裏側から出てきたマリーナは、自身の修道衣にくっ付いた草の切れ端を両手で叩いて払いながら笑った。
 それから教会の目の前で、楽器を片手に集まっている四人組

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瞳

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たそがれの國Ⅲ
『失せ物探し』
Find Lost Heart



 失くしたものを探している。
 たいせつなものを、見付けるために。
 失くしたものを探している。
 見付けたのなら、もう二度と、この両腕から離さないために。



 少年の中のいちばん古い記憶は、丸い瞳の中に輝く、無数の星々の炎だった。
 小さな少年の目の前に掛かる綴織には、円の中に角のすぼまった細長い楕円形が縦に収

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鈴

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〈第一章〉
小さな鐘



「……あなたは、〝失せ物探し〟なのですね」
「ああ。何か、見付かった?」
「——はい。見失っていた、ものが」
 走り去っていく少女の背を眺めながら、勇ましいお転婆娘、と呟いた少年は自身の手に有る杖を軽く振った。しゃん、と涼しげな音が鳴り響く。
 少年——未だ青年と呼ぶには惜しい年頃の少年である。
 この少年が手に持つ、彼の指先から肘ほどまでの長さしかない短

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