シェア
綿谷真歩
2016年8月30日 15:35
前 目次 人は、歴史をつくるために、歴史に足を踏み入れる。 ウルグ・グリッツェンは生き物の——魔獣すらの気配もない、古びて朽ち果てようとしている神殿の中を、ほとんど無表情に歩いていた。ウルグの靴音ばかりが壁に反響し、その進む彼の歩みだけを神殿の奥まで伝えている。 これは、ウルグ・グリッツェンが〝人は誰しも内に獣が棲んでいる〟ことを知った日、それより前の日の話である。✴ うるさいほど