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綿谷真歩
2015年11月1日 02:08
目次『たそがれの國』Twilight of the country✴ 何故、わたしたちは滅びなくてはならないのだろうか? どうすれば、わたしたちは滅びずに済むのだろうか? 黄昏がやってくる。 すべてを呑み込む、黄昏が。✴ ——黄昏に抗う鷹の爪、王都〈アッキピテル〉。 都を守る厚い壁、そこから旅立とうとする一人の少女が大地の上に立っている。 翠玉のように透き通った美し
2015年11月7日 19:49
前 目次 ウルグ・グリッツェンは考えていた。 黄昏とは一体何か、とを。 それにより水が涸れる理由、國に魔獣が蔓延る理由、空が濁る理由、人々が滅びる理由。すべてに何かしらの根拠が在り、この世に意味のない事柄など一つ足りとて在るはずがない、彼はそう考えている。 どこかきな臭い風が彼の頬を撫でていった。 倒壊した何かの研究施設らしき建物と、ひび割れて朽ちゆくのを待つばかりの道とも呼べない大理
2015年11月4日 01:13
前 目次 灯台の前で、ぼんやりと遠くの景色を眺めている、一人の青年がいる。 彼はそこに佇んだまま、自らが先ほどまで背負っていた大きな盾を地面に降ろし、孔雀緑の髪は風に遊ばせたままにさせていた。一房だけ伸ばした左目近くの前髪には、孔雀緑の中にどこか菫の色が混じって見える。 彼の瞳の黄金色は、一見するととても美しいものに見えるが、彼の前に立ってみると、その両目が何物も映してはいないことが分かっ
2015年11月14日 19:50
前 目次 柘榴色の髪を砂の絡んだ風になびかせながら、彼女は握っている自らの斧を男のようにしっかりと腰を据えて振り下ろした。 こちらの命を喰らおうとした魔獣の命が、彼女の目の前で弾ける音がする。 瞳の奥で燃えていた夕暮れの炎がゆっくりと沈んでゆくのを彼女は感じ、一呼吸置いてから、背中合わせで魔獣と戦っていたもう一つの命に声をかけた。「片付いたね、キト? 怪我してない?」「ああ。……お前は