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人は飯を食うために働くのか、タダ飯を食うために働くのか

フリーランス。それは、仕事がなければ即座に収入ゼロになる厳しい世界。
はっきり言って、3年半の小間使い経験では何ひとつ専門スキルを得られなかった私でしたが、さまざまな人間のあつまりで生き抜くすべだけは身につけていました。それは、雑談力

映画の現場って、イジョーに待ち時間が長いんです。照明のセッティングを待って、カメラポジションが決まるのを待って、俳優と監督が演出のやり取りをするのを待って、通行人を待たせてヨーイ、とリハーサル。やっとカメラが回り始めて1カット。また次のカットに取り掛かると、セッティングもイチからやり直して、とか。

その間、手の空いているスタッフ(基本的に手の空いている人なんていないんだけど)は何をしているかというと、タバコを吸いながら雑談しています。例えば、俳優さんについてきたマネージャーさんが近くにいるとします。マネージャーさんは、新作情報を知りたいので、ペーペーの私にも話しかけてきます。こちらも、俳優さんの過去の作品や、今後のスケジュールについて聞けるので、仲良くなっておいて損はありません。

衣裳や美術のスタッフも、基本的にセッティングが終わればあとは直しに入るだけです。特に衣裳やメイクさんは、撮影中ずっと、俳優さんとほぼ同じ動きなので待ち時間も長いです。待ってる間、楽しい話をして周りをなごませたり、おいしい飴を用意している、なんていう気配りのできる方が圧倒的に多いです。

中でも楽しかったのは、時代劇専門の衣裳を手掛けるおじいちゃんスタッフ(失礼!)とご一緒したとき。端切れで巾着を作ってくれたり、お茶をごちそうしてくれたりと、制作現場のピリピリした雰囲気で、そこだけオアシスのようだったなあ・・・

長いようで短い撮影期間が終わると、またスタッフは散り散りになっていきます。次の現場に呼ばれるかどうかは、親方次第、運次第。実力があれば声はかかりますが、呼ぶ方にも予算というものがあり、条件が合わなければ仕事は成立しません。

そんな中、私は制作マネージャーのコバンザメのようにくっついて現場を渡り歩き、なんとか糊口をしのいでいました。当初の夢だった「プロデューサー」は遠く霞み、エキストラや俳優さんの出入りをマネージする「演技事務」の仕事や、ロケ中の現金の出し入れを管理する経理助手など、要するに事務職です。

撮影期間中、スタッフは基本的に経費で動いています。「映画製作費」というのは実際は、人にかかるお金です。ロケ中食べて、移動して、場合によっては泊まって、集団生活をして・・・。生活費がいらないっていうのはお金の感覚を狂わせるみたいで、ロケが終わったらギャラのほとんどを飲み代に使っていた、なんていう猛者もいました。

私は貯金もしていたけれど、仕事が途切れると、バイトを入れたり先輩におごってもらったり。売れない芸人みたい(笑)。お忍びで日本に遊びに来た香港の女優さんの案内人、という謎の仕事を引き受けたこともありました。ホテルに朝迎えに行って、運転手付の車で代官山や裏原宿などを回り、ひたすらショッピング。お昼はラーメン(日本のラーメンが大好物だった)をごちそうになり、5日間で7万円位もらえました。

なんだかんだいって、私もヤクザな世界にいたのです。映画製作はコスパが悪すぎる!と批判したら「お前のようなスタッフを食わせているからだ」と反論がきそうです。そしてついに、そんな制作現場からも声がかからなくなる日が・・・

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