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Code for Japan の目指すもの (2022年版)

Code for Japan 関です。みなさま、2021年はどのような年でしたか。私に
とっては本当にいろいろなことがあった年でした。Code for Japan のこれまでを振り返りつつ、今後どのようにしていきたいかを書いておきます。
年始に必ずこういう記事を書くというわけではないのですが、折りに触れ残してきた文章を今振り返ってみると、当時思い描いていた未来に少しは近づいているようにも思いますし、まだまだできていないところもたくさんあり、その時々に感じていることを残しておくことは大切だなと思います。

過去記事で Code for Japan を振り返る

2018年12月の「Code for Japan 設立してからの5年間と、これからについて」という記事では、各地のCode for コミュニティ(ブリゲード)が70を超えたことや、行政側のシビックテックに関しての意識の高まりや、外部人材の活用について書いていました。Social Technology Officer という、NPOとテクノロジー人材をつなげる活動を始めたのもこのころでした。

そして、2020年1月の「Code for Japan の2019年とこれから」という記事では、日本、台湾、韓国のシビックテックコミュニティの繋がりや行政との連携案件の増加、行政向けのデータ活用ワークショップ「データアカデミー」の拡大などに触れています。一方、企業の社員が自治体で研修を行う地域フィールドラボについては、コロナの影響などもあり、現在では休止しています。この頃から、特定のタレントがプロジェクトを引っ張る形だけではなく、組織としての対応力を強化することを意識し始めました。

上記のエントリの直後くらいから新型コロナウイルスが日本でも猛威をふるい始めます。その後は怒涛の展開でした。東京都の新型コロナウイルス対策サイトをオープンソースで開発したことは、日本のシビックテックにおいてもエポックメイキングな出来事だったと思います。また、2020年10月に書いた「Code for Japan 7周年を迎えてのモードチェンジ」でも書いているように、Civictech Challenge Cup u22 などを中心に、10代、20代が活躍するようになりました。これは本当に喜ばしい変化でした。新しく入る人向けの環境をしっかり作ってきたメンバーの努力の結果でもあります。

sinsai.info からの10年」にも書かせていただいたように、昨年は東日本大震災発生後10年という節目でした。「社会課題を解決するためにオープンソースコミュニティの仕組みを使えないか」というボンヤリとした思いが生まれたのがあの震災でした。記事内に書いた、「伽藍とバザール」のメタファーは、今でも良く使います。
2021年の Code for Japan Summit を仙台の人たちと一緒に行えたのは本当に嬉しかったです。

改めて過去の記事を振り返ってみると、テクノロジーそのものではなく、誰とどのようなことをやるのかが重要なのだと改めて感じます。多くの人が、「それ面白いね」と最初の挑戦を共にしてくれました。

そして、今から振り返ると「あそこで大きく流れが変わったな」と思える意思決定も、その決定をした時点ではその大きさを意識しておらず、ものによってはただの偶然であることもしばしばでした。非営利団体の経営とは、本当に難しくもやりがいのあるものです。

行政と市民を繋ぐこと

シビックテックだけでなく、ガブテックの活動として自分が関わって嬉しかったこともいくつかありました。
東京都のチーフデジタルサービスフェローとして、都のオープン・ソース・ソフトウェア公開ガイドラインの公開をサポートできたことは、自治体としてかなり新しいことであり、嬉しく思っています。東京都では、合わせてハッカソンも開催していますが、そちらについても色々と協力させていただいています。
また、ちょうど2020年の夏ごろからコツコツとローカライズしていた、オープンソースの市民エンゲージメントツール「Decidim」を、加古川市を皮切りに多くの自治体に使って頂き、「Make our City プロジェクト」の一つの柱として育てられたこともとても良かったと思います。浜松市でも、オープンソースのデータ連携基盤を展開させていただいています。

準備室の段階から関わり、9月に正式に発足したデジタル庁においても、シビックテック担当のプロジェクトマネージャーとしていろいろなプロジェクトを担当させていただいています。デジタル庁の note でも、「デジタル庁とシビックテック」という記事を書きました。

何かと話題になったCOCOAについては、2021年1月から立て直しを担当し、オープンソースコミュニティによるサポート体制がちゃんと回るようになりました。

上記の記事を書いたのが昨年4月で、11月時点でCOCOAが正しく立ち上がらないという不具合が発生した際には、コミュニティ側との連携により、即日に原因を究明することができました。(COCOAの最新状況については別途記事を書く予定です。)

わからないものは批判したくなる

こういった経験を通じて感じるのは、政府や自治体の職員として見える景色と、シビックテック側から見える景色というのは、それぞれ違う、ということです。社会で課題となっている様々な出来事には、一筋縄では行かない構造的な問題が横たわっていることが多いです。現場の職員の多くは誠実に仕事をしているのに、全体最適化ができていないせいで局所的な問題解決にとどまってしまったり、作業量に対してリソースがなさすぎて中途半端なものを出さざるを得なかったり、適切な広報をするための十分な余裕が無かったり・・・
品質の低いソフトウェアを公開してしまう原因はいろいろあるのですが、外から見ると、「そんな簡単なこともできないのか」と見られてしまいがちなのです。
これを解決するには、やはりオープンな情報公開と、双方向の対話が必要だと思います。

例えば、昨年政府がリリースした新型コロナワクチン接種証明書アプリですが、リリース後いくつかの不具合や、後々実装する予定だった機能の告知不足などについて、不安の声があがりました。そのような声に対し、すぐにnote で補足記事を出したことにより、不安の声が減ったという件がありました。

FAQについてもオープンデータとして公開し、Code for Hamamatsu を中心とした有志がそのデータを使って検索しやすいウェブサイトを構築しています。

もちろん、使いやすいプロダクトを出す、という事そのものがもっとも大事ではありますが、批判を避けるために情報を出さないのではなく、積極的に情報を出す事で正しく問題を把握してもらう事も必要なのだと改めて思った出来事でした。よく言う事ですが、人は、わからないものは批判したくなるのです。何か手伝いたいと思う人も、手伝いようがありません。

民主主義をアップデートする

全体主義を批判したドイツ出身の哲学者、ハンナ・アーレントは、「人間の条件」の中で、人間は、公共の場で相互に話し合って自己を表現し、協力することによって、個性や能力を自由に発揮でき、この市民による自由な「活動」こそ、公共的な政治空間としての役割(公共性)を担うものなのだと書きました。また、「全体主義の起源」では、当事者性の欠如が大きな社会的悪につながるということも言っています。

選挙に行くことも大切ですが、それだけが民主主義ではありません。当事者意識を持って地域や社会の中で創造性を発揮する経験が必要です。今の社会はそのような機会が少なすぎます。そのような創造性を発揮する機会を増やすのがシビックテックです。
行政や政治家は、どんな社会を目指しているのかを率直にわかりやすく語り、市民が受け身ではなくそれぞれの視点で考えられるようにオープンにデータを公開し、多様な人がアイデアを提示できるように双方向の対話を可能にし、ボトムアップでいろいろな解決策を実装できるようにソースコードを公開し、失敗も成功も共有する。
市民は批判ばかりするのではなく、主体的に建設的な意見を出し、創造性を発揮し、良い挑戦は称賛する。
物理的な手段ではコストがかかりすぎで難しかったこのような機会を、テクノロジーをうまく使うことで生み出すことができます。実際、台湾やバルセロナなど、いろいろな国でそのようなテクノロジーが活用されています。

日本でも、市民参加型のまちづくりを、皆さんと進めていきたいと思っています。

デジタルな公共財を作る

サービスデザインとサステナブルデザインの世界的リーダーである、エツィオ・マンズィーニ氏は、「日々の政治」の中で、多様な人々の話し合いの中から活動が生まれ、プロジェクト化していき、そこから公共財(コモンズ)が生まれていくと語っています。
個人が直接グローバルに繋がった環境で、地縁や宗教などのつながりが希薄化し分断されてしまった(エツィオ・マンズィーニ氏の言によれば「液状化した」)人たちを改めてつなぎ合わせるための公共財が、シビックテックのエコシステムではないでしょうか。そのためには、我々一人一人がオープンマインドを持ち、自らの創造性を開放していくことが必要です。
東京都から全国に発展した新型コロナウイルス対策サイトのオープンソース化は、まさにプロジェクト型の公共空間でした。他にもたくさんのプロジェクトが生まれています。
Code for Japan は、デジタルの公共財(デジタル・コモンズ)を作るための環境をこれからも整備していきたいと思います。

「ともに考え、ともにつくる」人たちは、お陰様で増加中です。昨年、各地のブリゲードは90を超え、Code for Japan の Slack も6、000名以上が参加しています。Civictech Challenge Cup u22 や Civictech Accelarator ProgramMake our City プロジェクト など、新しい取り組みも増えてきました。
有給スタッフは15名を超えました。インターン達もやる気に満ち溢れています。
特定のタレントのみに頼らず、組織としていろいろな活動ができるようになってきました。これからも、いろんな組織と連携しながら、公共財を生み出していきたいと思います。

もし、何か一緒にやりたい!という方がいたら、まずは  Code for JapanのSlack にご参加ください。そして、月1回のペースで行っているソーシャルハックデーにも遊びに来てくださいね! Happy Civic Hacking🚀


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