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【量子化学】プランクの量子仮説に関するウラ話

化学で使う物理化学(例えばアトキンス物理化学)の教科書に書かれているプランクの量子仮説の説明はこんな感じだ。

量子化学への入り口話として、黒体放射に対する解釈法として①ウィーンの法則、②レイリー・ジーンズの法則、③シュテファンーボルツマンの法則が並べられる。とりわけ、②を殊更にとり上げて実験結果を上手く説明できなかった(紫外部破綻)と書いている。そこで、プランクの量子仮説を導入したら見事にその問題が解決されたので「めでたしめでたし、じゃあ次はシュレディンガー方程式をやろっか」という流れになっている。なので自分は、ずっと量子仮説が素晴らしいアイデアとして導入されたものだとばかり思っていた。

ところが、実際はそうではなかった。最初、プランクはこの①②の法則の数式がそれぞれ短波長側と長波長側とで上手くいくことに注目して、数学的な辻褄合わせをしてみた。すると、スペクトル全域で黒体放射を説明できるプランクの式に偶然たどり着いてしまった。もちろん「偶然これで上手くいったんだから、もう良いっしょ」とは片づけられない。科学である以上は、出来た数式に物理的にどんな意味合いがあるのか、プランクはその意味づけをする必要に迫られた。

1900年の10月~12月にかけて、プランクは不眠不休で自分が導いた式に理論的な裏付けを行った。その時、意思に反して採らざるを得なかったアイデアが「量子仮説」なのだった。そのネタ元となったと思われるのが、1872年にボルツマンが発表した分子の運動エネルギーの(表記上そう見える)量子化らしい。しかし、これは「エネルギーは連続的なもの」という当時の共通認識に真っ向から叛逆する禁断の手だった。プランク自身もそのことを重々承知していたから、後にこの量子仮説の導入について「絶望的な行為だった」と振り返っている。

自分が信じていた物理を根っこからぶっ壊すようなことをしたという悔しい気持ちはこの一言から汲み取ることができる。教科書には書かれていないけれど、プランクにとっての量子仮説を個人的な表現にすると「今までの物理の歴史を否定することになるかもしれないんだから、全然めでたしめでたしじゃねぇんだよ」っていう風になる。その証拠として、量子仮説を提示した後のプランクは古典物理の枠組みの中に量子論を何とかしてやり込めようと力を尽くしている(しかしながら、その試みはことごとく突っぱねられた)。

結果的に、量子仮説はそれまでの物理を "古典物理" にしてしまうほどの(良い意味での)革命、パラダイムシフトを引き起こした。次なる物理の目標は、量子仮説に端を発するエネルギーの本質的な理解と、種々のエネルギーの関係性をどう解釈するかにあると思う。

そういう風に見れば、シュレディンガー方程式の重要性が何となく見えてくるなぁ・・・とそう感じる今日この頃なのだった ( ˘ω˘ )

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