大きな犬のはなし
この間、友達と遊んだ帰り、お散歩中の犬と何度もすれ違った。
夕方5時くらいで、ちょうどそんな時間なんだねと言い合った。
日も長くなってきて、お散歩日和の季節に、昔書いた犬にまつわる文章を載せてみようと思う。
子供の頃、近所に大きな犬がいた。
いた、といっても、普段は室内で飼われていたので、ときどき散歩しているのを見かけていただけだ。
犬は、ものすごく大きかった。
子供の記憶なので、自分が小さかったこともあるが、ちょっとドキッとするほどの大きさだった。
何度も遭遇しているのに、見かけると思わず「あっ」と言いそうになった。
今でも覚えている光景がある。
お祭りのとき、商店街になっている坂道を、お神輿が通っていた。
道の両側に人が大勢集まっていて、私も家族と一緒に、少し後ろの方から見ていた。
ふと、脚に温かさを感じた。
ふわふわとしたそれは、犬のしっぽだった。
しっぽは左右に揺れて、ふわっ、ふわっ、と私の脚をなでていく。
犬はおそらく私の斜め後ろにいて、姿は見えなかった。
お神輿と、沿道の人だかりと、幼い私と、犬。その状況を俯瞰した絵が、今も頭に残っている。
お祭りの熱気と、脚に触れる体温。
その犬は、オールド・イングリッシュ・シープドッグというそうだ。
真っ白で、ふわふわで、お腹は灰色で、毛で隠れて目が見えなかった。
母に、あそこの家の夫婦は子供がいないから、犬が子供代わりらしい、と聞いて、犬を子供の代わりにする、そんなことがあるんだと不思議だった。
犬がテーブルで一緒に食事をしたり、ベッドで夫婦と川の字に寝たり……小さかった自分には、そんな想像が頭に浮かんでいた。
当時は大きくて怖かったけれど、今思えば、一度触らせてもらえばよかった。
結局、触ったのはしっぽだけだった。