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広報・PRパーソンが絶対に持つべき要素とは何か【PR歴20年を経て思うこと】

私が社会人になったのは、氷河期と言われた2000年。
最初の仕事はブルームバーグテレビジョンという、元NY市長が立ち上げた金融専門メディアで、その後1年でプラップジャパンというPR会社に転職した。転職したのが2001年、すなわちPR歴は20年ということになる。(こわ!)先日、PRにどのくらい携わっているかを伝えたら「レジェンドですね」と言われた・・・。「レジェンド」という言葉で形容される人と言えば、スキージャンプの葛西紀明ではないか!ついに私もそんな風に形容されるようになったのか。(いや、ただ年齢だけだ)。

さて、PR会社・企業広報・フリーランス・会社立ち上げと、ずっとPRを軸に仕事をしてきたからこそ、言える「PR業界のこの20年の変化」について記してみようと思う。

PRの認知度の転換点は、スタートアップ広報にあり

まずPR・広報の認知度について。

2000年頃、マーケティング業界以外で、PRと広告をきちんと理解している人はほとんどいなかった。私も、PR会社に転職すると言うと、「広告会社のようなもの?」と何度も言われたし、一言で説明するのは非常に難しかった記憶がある。

PR会社を志望する人は、広告会社を落ちてPR会社にという人も多かったし、何よりも、広報やPR担当として表に出ているのは、アパレルやコスメ企業のPR担当ばかりだった。林真理子の「コスメティック」という、PRパーソンが登場する小説があるのだが、PR担当に象徴されるのはまさにあのイメージだった。

アパレルやコスメ以外のPRパーソンがどんどん表に出てくるようになったのは、やはりSNS等の存在が大きいと思う。PRパーソンの様相は、肌感覚でこの8年ほどでガラッと変わった。きっかけはスタートアップにあるのではと個人的には思う。日本でスタートアップ起業の機運はどんどん高まっており、そしてスタートアップ経営者だからこそ、広報・PRが今後のビジネス成長に大切だということを認識していた。だからこそ、早めにPR担当者をメンバーに据える。そしてそのスタートアップ経営者とPR担当者は、大企業のように、SNS上での発言に、いちいち会社や上司の判断を仰ぐ必要がない。ここで、デジタル上での存在感を増していくことができたのが、PRパーソンが表にどんどん出てきた要因だ。今や、企業のPRパーソンがどんどん表に出ているし、個々がPRについて発することが、PRの機運醸成に一躍買っていると思う。

PRの業務はどう変化したか

さて次にPR業務の変化である。PRとは、パブリックリレーションズであり、全てのステークホルダーに対するコミュニケーションであると定義されている。しかし、20年前、少なくとも10年前までは、PRの仕事はメディア向けのものが8割〜9割だったと思う。ターゲットである一般の消費者の心を動かす直接施策もあったものの、ほぼ多くが、「メディアを経由して動かす」というものにとどまっていた。だからこそ、PRパーソンはメディアに電話をかけ、足繁くメディアの元に通い、あの手この手で商品やサービスをアピールし、メディアでの露出に繋げていたわけだ。(もちろん今も、かつてほどではないにせよ、メディアの影響力は一定数あり、メディア露出はPRの重要な仕事の一つではある)。

このメディア一辺倒のPRが変化を見せたのは、やはりネットとSNSの普及である。PRの定義である「すべてのステークホルダーに対するコミュニケーション」という「すべてのステークホルダー」という概念がより一層当てはまるようになった。そして何よりも、企業が、メディアを介さなくても情報を発信し、伝えられるようになったという事実が大きいだろう。

PR TIMESなどのニュースリリース配信サービスが全盛期の今では考えられないかもしれないが、私がPR会社に入社した頃、メディアにリリースを郵送で送ることも多かった。(こう書いていて、信じられないな)。ニュースリリースとはメディアだけに向けたものだった。

しかし今はどうだろう。ニュースリリース配信サービスで出したニュースリリースは誰もが見ることができる。SNSでリリースを確認し、「あの会社、新しいことどんどんやってるな」「こんなサービス始めたんだ」と思うことも多々あるだろう。今や、ニュースリリースはメディアだけのものではない。一般の人のココロを動かしたり、記憶に残したりすることもできるようなものとなったのだ。だからこそ、手紙のように想いを綴っているようなニュースリリースも出てきたのだろうなと思う。あれはもはや、一般の人のココロを動かした上で、メディアを動かすものだ。

さらに今では、リリースだけでなく、企業が独自で情報を出していくことができる。オウンドメディア、SNSなどはその一つの例だろう。私は、これからの時代、より一層、リアルだけでなくデジタルに企業の色やぬくもり、「人っぽさ」を残していくことが大切だと考えているのだが、企業に応じて、どのツールを使えばその企業らしさが残せるのか、オリジナリティがより一層出せるようになったとも言えるだろう。

PRパーソンに必要な素養は変わったのか

さて、ここまで書いてきて、最後に書くのは「PRパーソンに必要な素養は変わったのか」だ。私は、変わったというよりも、より多面的な要素が必要になったと考えている。私がPR会社に入った時に一番最初に思ったのは「メディア向けの営業だな」だった。(もちろんもっと違う側面もあるのは理解している)。だからこそ、営業力のある人、コミュニケーション能力が高い人が多かった。

しかし今、PRはメディア向き合いは業務の一部にすぎない。そしてこれだけインターネットとSNSが普及した今、いい情報も悪い情報も、すぐ伝わるし、人の考えも変わりやすくなっている。

だからこそ、私が今、PRパーソンに必要な要素は「時代の空気、人々の空気を捉え、そこの自社の商品やサービスをどう結びつけていくか」だと思っている。より一層、時代と空気感を読み解く力が必要になっている。

そしてそれらの施策を展開していく前提として、PRパーソンには「倫理観」が必要だ。これは本当に非常に重要な要素だと声を大にして言いたい。

例えば、メディア露出も、SNSでの発言も積極的な企業があったとする。その企業がある不祥事を起こした。その途端、メディアの取材も受けず、SNS等もダンマリ・・・。だとしたら、その企業にどんな印象を受けるだろう。

「あんないいことばかり言って、結局事件がおきたらダンマリかよ」と思うのではないだろうか。積極的に発信するならば、その後の対応も誠意を持って対応すべきである。

別の側面から考えてみよう。「戦争広告代理店」という本を知っているだろうか。広告代理店とタイトルにはあるが、ボスニア戦争に際して、情報操作を行ったあるアメリカのPRパーソンの話だ。もっと最近のもので言うと、「女神の見えざる手」という映画がある。銃擁護派団体から、銃規制法案を廃案に持ち込んでくれと依頼されるが、それを断り、逆に銃規制法案の成立に尽力していく話だ。これも、緻密な戦略によって、世の中の空気を変えていくPRの話だ。

日本ではまだまだPRが大きな空気作りに寄与していない側面があるし、オリンピックやコロナ禍の一連の動きをみてみると、はっきり言って「空気」を切り取れても理解できてもいない。しかし、今後はもっと、「情報操作」(操作というと悪い印象があるが、いい流れに持っていくという意味でも)と「PR」は切っても切り離せないものとなるだろう。

PRという仕事は、世の中にいいうねりを作ることができる一方で、別の方向に導くことさえできる。だからこそ、PRパーソンは「倫理観」を絶対忘れないでいて欲しいと思う。

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