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上がアレだと下が泣きをみる

(今回の記事の読み方)
タイトルおよび記事中の「アレ」は本来はある単語が入るものです。しかしあまり行儀のよろしくない言葉ですのであえて「アレ」とぼかしています。みなさま各々でよくない言葉を想像してあてはめて読んでください。あの、馬とか鹿とか、阿とか呆とか、そういう類で大丈夫です。


わたしの前職の上司は数々の名言を遺して、たぶんいまもどこかの空の下で元気に誰かにクンロクをかましていることと思うのですが、その名言の中でも最も首を縦に振らざるを得なかったのが、これです。

「上がアレだと下が泣きをみる」

前職では数々の「上がアレ」なおかげで「下が泣きをみる」さまを目にしてきました。そしてその度にわたしと上司は新宿アイランドタワー地下のキリンシティでビールを飲みながら「やっぱり上がアレだと下が泣きをみるんですねぇ」と言い合っていたものです。

最終的にはピーターの法則に則ってわたしがアレになり、下を泣かせるに至ったわけで、期せずしてこの名言を裏付けることになってしまいました。当時の下の人、ごめんよ。


それはさておき、この「上がアレ」問題ですが、渋谷に数多く棲息するベンチャーと呼ばれる組織で比較的よく見られます。本気でイノベーションを起こそうとチャレンジしているスタートアップじゃありませんよ、既存事業で細々と喰ってるベンチャーです。お間違えなく。

今日も組織の上が「アレ」なばかりに下が「泣きを見る」状態が発生し、いそいそと退職代行サービスに登録するヤングビジネスパーソンが後を絶ちません。

これ結構本腰入れて対策しないと、ここから先経営を圧迫する問題になるかもしれませんぜ。

なぜか。

ひとつは求人倍率の問題です。厚生労働省によると2024年1月の有効求人倍率は1.27倍。ひとりに1.27件の仕事がある状況です。(※出典:一般職業紹介状況(令和6年1月分)について|厚生労働省)

そしてこれは平均値であって、職種別で見るとえらいことになっている、とわかります。

営業職で2.39倍、介護サービスで3.59倍、建築土木に至っては7.01倍です。

現時点では仕事を選り好みさえしなければ圧倒的に売り手市場です。

さらに働く側の意識の変化も決して軽視できないでしょう。現在は会社を辞めること、転職への抵抗感の摩擦係数は限りなくゼロに近くなっていると言えます。仮に30年前が80μ、20年前が50μだとするとこの10年で急激にツルッツルになってしまったわけです。

いやなことがあったらすぐ逃げろ!という「いのちだいじに」コマンドはわたしも支持するものですが、ややToo muchかもしれません。

そこへきて退職代行サービスの台頭。いのちだいじに、が加速します。退職願を出して人事や上司から嫌味のひとつふたつ言われるぐらいは人生のスパイスとして一回経験しとけよ、と思うんですけどね。なにも死にゃあせんて。


こうした働く側の変化があるにも関わらず渋谷のベンチャーは相変わらず「チームワーク抜群の楽しい職場」「働きやすさもバッチリ」「圧倒的成長ステージで見たことのない景色を見に行こう」といったトリッキーなアプローチで社員を集めようとしがちです。

おもしろいことに事業そのもので勝負!をかけるベンチャーはないのね。ほとんどどこもレガシー産業の焼き増しだから仕方ないのですが。

ここにミスマッチが起きて、しかも明るい未来に胸ときめかせて入社したらあらびっくり、上がアレだったりするんです。なんでこんな悲しいことになるのでしょうか。

いろんな要素があるので一概には言えないのですが、ひとつは人手不足ですね。数は足りていても質の面での人材不足。そのせいで資質が足りていない人が上に立つことになってしまう。これは不幸でしかない。

そしてベンチャー特有の変なノリ。

失敗したっていいんだよチャレンジが大事なんだゴーゴーゴー!とかいいつつも事業についてはそもそも体力(資本)がないからいざ本当に挑戦する段になると大企業顔負けのリスクヘッジをかますんだけど、組織づくりや人事に関してはなぜかそのブレーキが効かない。

特に営業職など数字が明確な指標となる組織ではプレイヤーとして抜群の営業成績をあげた者からバンバン上に登用してしまいます。本当はプレイヤーとしての能力よりマネジメントの資質のほうが大事なのに。

その上数字至上主義にならざるをえないベンチャーではマネジメント研修やマネジメントに関する知見を貯める動きをしません。そんなもんは後回しとか、もっと組織が大きくなってから、とかもっと数字が安定してから、と言います。

もちろんそんな状態ですからいつまで経っても組織は大きくならないし数字はずっと不安定なままなので、下手すると廃業するまでマネジメントについて学ぶ機会を持たないベンチャーも存在するかもしれません。

そうした背景から人間としてペラッペラだったり考えが浅い兄ちゃんでも「数字あげてるしやらせてみようよ、そうすることで成長するし」みたいな現実逃避的な解釈がなされるわけです。

かくして向いてない人、適性のない人、知見のない人が人の上に立つことになってしまう。

この手の組織は往々にして人が定着しません。採っても採ってもすぐ辞める。いわゆる穴の空いたバケツに水を流しこんでいる状態です。

なのにこれまた不思議なことに、抜本的に改善しようとしないんですね。代わりの人がいない、というよくわからない理由で。いや、そもそもそいつ起用した時点で間違ってんだからそこを変えないとでしょ。

かくして今日もアレが間違ったリーダーシップを発揮し、求人広告や人材紹介に湯水のようにお金を使うという構図が完成するのです。湯水とはよくいったものでバケツの底の穴からジャブジャブ零れていくのね。もったいない。


この悲しみの連鎖を断ち切る方法はただひとつ。

まさにピーターの法則の実践でもあるのですが、アレを昇進昇格させないことです。とはいえアレは現場仕事でのパフォーマンスは高かったりするので昇給だけはきちんとしましょう。

そしてチームをリーダーがいなくても回るように仕組みから改善すればいいんです。

大丈夫、ぜったいにできます。

試しにアレがやっているリーダー業務を洗い出してみてください。いらんことばっかりですよホントに。いらんことばっかりやってるから下が泣きを見るんです。これは間違いない。実際に経験ありますもん。

それよりも経営トップとか、正しいマネジメントができる人が3ヶ月ぐらい介入してリーダーなしでも動けるチームを作ったほうがナンボか早いし将来も明るいです。

本当にリーダーが必要な規模になったら、その時にふさわしい人材を採用すればいいんです。もちろんそれなりのお金を払って。

あともうひとつ。任命責任というものを明確にしたほうがいいですね。なぜかアレを起用して失敗したときアレが処分されても任命者は安全地帯で煙草吸ってたりしますからね。このあたりにも日本の組織が上手くいかない理由が眠っているかもしれません。

上がバカだと下が泣きを見る。

これは適材適所、ということを見事に言い当てている名言なんだなあ、といまさらながらしみじみ思います。

え?

偉そうなこと書いてるけどお前はどうなんだって?

わたしはいい歳して役職もなければ部下もいませんよ。だってアレですから。それでいいのです。

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