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物件名は体をあらわすのだろうか

広告を作らないコピーライターにとって「よし」と褌を締め直したくなる仕事があります。

それは、ネーミングです。

ぼくは比較的ネーミングの仕事をいただく機会に恵まれており、不動産や飲食店、Webサービス、果てはご子息の名前などありがたいことに硬軟いろいろ取り組んでまいりました。

ネーミングの仕事が面白いのは、残り続けることなんですよね。

マンションシリーズだと何年か後のすっかり忘れた頃にふと、ある街で再会することもあります。お子さんだと幼稚園、小学校、中学校、高校と大きく育っていきます。

一方、飲食店で業績が芳しくなく、あえなく閉店…なんて痛い経験もしました。もちろん名前だけのせいではないかもしれないけど、それでもごめんなさいって気持ちになります。

そんな職業ですから、ついつい気になるのが自分の住んでいる物件の名称。ぼくは圧倒的に賃貸派(家が持てる甲斐性がない)ということもあり、18で実家を飛び出してからいくつもの賃貸物件を転々としてきました。

ちょっとここで、これまでにお世話になった住まいのネーミングを並べてみて、かの有名な「名は体を表す」ということわざは本当なのか、を検証してみます。

ちなみに物件名の横の数字は名は体を表す指数です。百点満点です。

第ニときわ荘…600

生まれてはじめてのひとり暮らしを華々しくスタートさせたのはこちら。東京都北区神谷にある木造築25年(当時)風呂トイレなし六畳一間のアパートです。

ときわ荘と聞いて「はっ!?まさかあの漫画の神様たちが集った…」とか「テラさん…」といったフレーズが浮かぶあなたはまんが道の読みすぎですね。あっちはトキワ荘で、豊島区南長崎です。

第二というからには第一ときわ荘があるのですがそちらはナンバリングされずにただの「ときわ荘」として、大家さんの自宅と第二ときわ荘の間にサンドイッチの具のように挟まれていました。

ではなぜこの物件はときわ荘だったのか。

ときわ〔ときは〕【▽常×磐/▽常▽盤】 の解説
[名・形動ナリ]《「とこいわ」の音変化》
1 常に変わらない岩。
「皆人の命も我もみ吉野の滝の―の常ならぬかも」〈・九二二〉
2 永久に変わらないこと。また、そのさま。
「大君は―にまさむ橘の殿の橘ひた照りにして」〈・四〇六四〉
3 常緑樹の葉がいつもその色を変えないこと。また、そのさま。常緑。「―なる松の緑も春来れば今ひとしほの色増さりけり」〈古今・春上〉

出典:デジタル大辞泉(小学館)

なるほど、ときわ、という言葉にはこのような意味があるのですね。「君が代」にも通じる、いかにも昭和の資産家が好きそうなワードです。おそらく当時、東京の至るところに同じ名前のアパートが存在したのではないか、と想像できます。

そしてなんとこの第二ときわ荘、ぼくがお世話になってたのは35年前ですが、いまだに健在です。築年数でいったら60年近い。さすがときわの名を冠する木造建造物。このまま永久に変わらずいてくれよ。

カーサタナカ…50

ときわ荘の隣人がぼくの留守中を狙って食品の窃盗に入ること数回。さすがに気味が悪くて引っ越した先のアパートがこちら。大日本製本で夜勤のバイトを重ね、貯めた敷金礼金で夢の風呂トイレ付き物件に入居しました。

カーサタナカの「タナカ」の部分は、これはもう田中さんですね。オーナーの苗字に違いない。

では一方の「カーサ」。これはいったい何を表すのでしょうか。「カーサは気まぐれ」それはカーマですね。「カーサんが夜なべをして」手袋を編んでくれたのはかあさんです。

「カーサ」はハウスよりオシャレな響き?
カーサは、イタリア語・スペイン語・ポルトガル語で「家」という意味の言葉です。日本人がなじみ深い英語で家は、ハウスやホームですが、あまりマンション名に用いることはありません。カーサやメゾンのように英語以外の言葉で「家」という意味を持つ言葉が用いられることが多いです。英語よりも非日常的な響きやオシャレな感じがありますね。

ARUHIマガジン 2021.08.01 【コーポ、ハイツ、カーサ】集合住宅で見かけるカタカナ名称の本来の意味とは?より

ネットは便利ですね。「カーサ 意味」で検索するとこんなに丁寧に教えてくれます。そう!カーサとは単純に「家」という意味なのでした。

つまり「カーサタナカ」とは「田中家」?もう少しカジュアルにいえば田中さん家、といったところでしょうか。確かに、3年ほどお世話になりましたが、そこはかとなく田中さん家にいるような気が漂っていました。

ブランシュ十条…0

なぜか同じ北区内、しかも東十条~十条間という至近で引っ越した我が人生3件目にしてはじめてのマンション物件です。

ブランシュという言葉ぐらいは無学なぼくでもわかります。フランス語で「白い」という意味ですよね。浜田麻里や飯島真理のアルバム名でもあります(偶然にもふたりともマリさん!)。

しかしこのマンション、お世辞にも白とは関係が深いとはいえない物件です。というのも立地が環七沿い。朝から晩までクルマの騒音と排気ガスにまみれていたからです。

夜などあまりにもうるさいので「これは波の音だ…TOKYOウエーブサウンド…都会のNight バイブレーション」と暗示をかけて寝ていたほど。

パークサイド千川…100

社会人5年目にしてはじめて北区を脱出できました。有楽町線「千川」駅から歩いて5分のワンルームマンションです。

ここはまさしくパークサイド。目の前に小さな児童公園があったのです。夏は盆踊りやラジオ体操が行われる公園で、個人的にとても気に入って住んでいました。

ただし、いまあらためて大島てるを閲覧すると恐ろしい事実が…

ま、ぼくは2階に住んでいたので直接は関係ないんですけどね(泣)

ピトレスク…5

結婚して最初に住んだアパートがこちら。さきほどのパークサイド千川からほどちかい場所にある二世帯住宅タイプの物件でした。

一階にはおじいさんとおばあさんが住んでいて、毎月のお家賃は持参、という古き良き時代の風習が残っていましたね。とてもやさしい大家さんで、顔をあわせれば天気の話から健康の話題、その他いろいろ世話を焼いていただきました。

さて、そんなほんわか老夫婦が命名した「ピトレスク」。奥さんはずっと「ピカレスク」と言い間違えていましたが、どんな意味なのか。調べてみましょう。

ピトレスク(〈フランス〉pittoresque)
[形動]絵のように美しいさま。絵画的。「ピトレスクな情景」「ピトレスクな詩文」

小学館/デジタル大辞泉より

うーん…絵のように、美しい?絵画的?それはちょっとどうでしょうか。大家さんには申し訳ないんですが、若干名前負けの印象が・・・

きっとこの住宅を建てたメーカーが名付けたか、あるいはいくつかの候補を持ってきて決めさせたんじゃないか。そんなふうに疑いたくなります。

アコール桜上水…120

念願の世田谷生活!と思いきや、住所は思いっきり杉並区であったこちらの物件。桜上水徒歩5分、甲州街道沿いマクドナルド上のマンション、といえば都内西部にお住まいあるいは勤務されている方なら「ああ」とわかるかもしれません。

このしょっちゅうマクドのポテト臭と「チャララ、チャララ、チャララ…」というフライヤーサウンドに悩まされるマンションの名前にはいったいどんな意味が込められているのでしょうか。

「そんな、なんでもかんでも意味があるわけではないっしょ。もうこのあたりのネーミングなんか語感だけじゃないの?語感」

そうですよね、ぼくもそう思いました。そしたらなんと、フランス語で「一致、合意」「賛同、同意」あるいは「調和、一致」「和音」といった意味があるんだそうです。

なるほど!桜上水商店街でオリジン弁当を買って帰ったとしても、家で食べるときにはすっかりマクドの香りに包まれる、と。それこそが調和であり、おいしさの和音である、と…。深い!深すぎますね!

実は…

このあと3件も物件があるのですが、つらつら書いているうちに個人的に規定打数に設定している3000文字を超えてしまいました。

なので、残りの物件につきましてはこちらの記事のPV数ならびにいいね数を参考にして、また別の機会に紹介しようと思います。

ちなみにぼくがこれまで見聞きしたアパート名でナンバーワンの耳障りそして意味不明なものはこちらです。

セントロパルケ

岐阜県高山の物件です。ぼくの小中高の親友が学生時代を過ごしたアパートです。一度聞いたら忘れない。そして意味がまったくわからない。

みなさんもぜひ、過去あるいは現在お住まいの物件のネーミングの意味を探ってみてはいかがでしょうか。

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