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修正がやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!(A Hard Day’s Night)

求人広告につきものの、いや、求人広告だけじゃないですね。およそこの世で商業文章と呼ばれるもののすべてが避けて通ることのできない関所。それが修正でござるよ。

もしかしたら商業文章だけじゃないかもしれません。純粋文学、小説やエッセイだって編集者からの修正というものが存在するかもしれません。

しかし。

修正が著者のハートに、より鋭角に突き刺さってくるのは、やはり商業文章でしょう。念のために商業文章の範囲を定義しておくと求人商品問わず全てのジャンルの広告文案、なんらかのPRを目的とした記事およびインタビュー記事、ブランディング目的のステートメントも含まれるでしょう。

要は法人から依頼されて、お金をいただいて書く文章ですね。

今回はこの商業文章における修正について、主に求人広告制作目線で考察してまいります。

ショックをどうやわらげるべきか

もちろん手抜きなどしていない。それどころか精魂こめて一生懸命こしらえた求人広告コピー。あ、この「求人広告コピー」のところ、「インタビュー記事」とか「ステートメント」とか「ラーメン」「ブックカバー」「輪島塗」なんでも自由に置換してください。

それなのに、ああそれなのに。ご無体にもバッチリ赤が入ってくる。

それだけでも凹むのに。ひどいときはお説教までついてきたりして。もちろんあからさまなお叱りではないですよ。でも赤がバッチリ入っている段階で受け手の気分はネガティブ1000%。なのでちょっとした指摘にもヒリヒリ反応しちゃう。

OK、落ち着こう。オレ、冷静になろう。

修正がやってきたらまずやること。それは明鏡止水の心で受け止めることであります。

【明鏡止水】
邪念のない、落ち着いた静かな心境。曇りのない鏡と静かに澄んだ水の意。
(岩波国語辞典第三版より)

そのために、まずは一旦その場から逃げましょう。いかにも赤が入ってそうな原稿がメールなりFAXなりで届いたら、サッと目を通して別のことに意識を向ける。そしてまったく別のことをする。ゲームでもいいし、読書でもいい(あんまり頭に入ってこないけど)。

ぼくの場合はTwitterに走ります。平日にも関わらずぼくのTwitterがやたら多いとき、それは鬼のような修正から逃げているときだ、と思っていただければと。

そしてクールダウンを図るんです。このときのコツは、まるで別のことをしながら自分の気持ちに正直になること。つまり「くそーっ」「やだやだ」と思ったり「はあーあ」ってため息ついたり「わかってねえな、わかってねえんだよ、まったく」と罵詈雑言を飛ばしていい。心の中で。

逆に言うとこのタームだけが自分に正直になれるわけですから、おもいっきり吐き出すべきでしょう。ここで中途半端にいい子ちゃんになって溜め込むとあとでしんどいことになります。

徐々に奇妙な冒険…ではなくふだんの自分を取り戻す

30分から2時間ぐらい放置すると頭の中もずいぶんと冷却されてきます。そしてさきほどの罵詈雑言をなんとなく撤回してもいい。だってオレは違いのわかる男ネスカフェ・ゴールドブレンド、そんな気分になってきます。

さあ、そうなったらしめたもの。いつもの自分を取り戻すチャンスです。目を閉じて自分に問いかけてみましょう。

おまえ、いったい何様なの?

修正もらうなんて当たり前じゃんね

そもそも自分の力不足が招いてるんでしょ

思い上がりも甚だしいぞ馬鹿者が

はい、これぐらいでいいです。あんまりやりすぎると再びイジイジモードに入っちゃうのでくれぐれも手加減をお忘れなく。とにかくこのタームで大事なのは謙虚なぼくを取り戻すために矢印を自分に向けるということ。

最初の修正に触れたときに吐露しかけたお気持ちがダサければダサいほど、反動で謙虚メーターが振り切れることに。同時に、あのときの気分を一ミリも外に漏らしてなくてよかった!と胸をなでおろすはず。

もし、万が一でもお気持ちのかけらを伝えてしまっていたら…たとえばメールの返信にほんの少しでも反論するニュアンスのフレーズを差し込んでしまっていたら…こんなふうに…

修正指示ありがとうございました。ざっくりと拝見したところ、いくつか検討および見解のすり合わせが必要な箇所が見受けられました。とはいえちょっといま別件で手が離せないので、日をあらためて検証し、議論の場を設ける旨のご連絡さしあげます。さしあたって現時点での感想ではありますがご指摘の点、あまりにも各論すぎないかと思っています。以上。

きゃーっ!!想像するだけで脊髄が凍りつく感覚!穴があったら入りたい。文面からあふれ出る「なにいってんだオレ様」感。あちこちにほとばしる言わんでもいいことの飛沫。

こんな返信メールよこすライターいたらもう絶対に仕事頼まないわ。頼みたくないわ。下手くそなライターに限ってこういう反論するんだよなあ。そんなふうに思います。ぼくならそう思う。

だ・か・ら

冷却期間を置き、なおかつふだんの謙虚な自分を取り戻す必要があるのです。なに、ふだんから特に謙虚ではない?じゃあまず謙虚さを身につけることからはじめましょうよ。

さあ、目的に立ち返ろう

そもそもこの文章の目的ってなんだっけ?いい人材採用するためじゃなかったっけ?この会社の知られざる魅力をアピールするためじゃなかったっけ?ビジョンを明確にすることで社員の心をひとつにするためじゃなかったっけ?

目的を再定義しましょう。

そうすると、あれ?なんだか憎々しかった赤字、修正、リクエスト、オーダーの数々がなんとも心強い助言に見えてくるではありませんか。

そもそも前述の壮大な目的を達成するのに、自分ひとりの考えやアウトプットだけでなんとかなるわけないでしょう。集合知という言葉もあるじゃないか。集団的知性を駆使することではじめて当初の目的を果たすことができるのではないか。

この、出来そこないで馬鹿丸出しのオレがつくった土台に、いろんな知性が乗っかることで、よりよいものに仕上がっていく。そうじゃないか。

ここまでくると、心の中はむしろさわやか。

ああ、オレはなんて思い違いをしていたんだ。バカ、バカ、星飛雄馬のバカ。いや巨人の星で星飛雄馬はやたらと自分のことをバカとけなすのです。それぐらいに自分をこらしめたくなります。

オレが、ではなく、関わるみんなが、で。誰が、ではなく、何がで考える。

このタームでは山のような修正の赤字は自分自身を否定しているものではなく、目的に向かって軌道修正する金言に見えてくるから不思議です。

さらに自分を勇気づけるために、こうも考えます。求人の場合ですが…

いま自分が作っている求人広告はこの先、何十人、何百人、もしかすると千人以上の求職者に見てもらうことになる。そしてその中の何人かには応募というアクションをしてもらうことになる。にもかかわらず、目の前のたった数人、採用担当、人事責任者、所属部門の責任者、あるいはその会社のトップを「すごい!」と言わせられないでどうする。すごいとまでいわせなくとも納得させる力がなくてどうする。お前がつくっているものは自己満足のポエムじゃないんだ。機能する商業文章なんだよ。

これは結構、本当にそう思っています。いつも。いつでも。求人の仕事じゃなくても、です。

そういえば前職でもクライアントから大量の赤字もらって涙目になってる部下にこの手の話をよくしてたっけ。

ポジティブモードでトンカチ作業

さあ、もう大丈夫。逃げることなく赤字と向き合いましょう。マインドさえ持ち直せばあとはトンカチ作業で終わりです。ん?ほう、なるほど、こういう指摘もあるのか。おお、これは確かにおっしゃるとおり。そんなふうに修正ひとつひとつからも学ぶことがあるんです。

ちなみにトンカチ作業とは村上春樹さんの言葉。

同じ文章を何度も読み返して響きを確かめたり、言葉の順番を入れ替えたり、些細な表現を変更したり、そういう「とんかち仕事」が僕は根っから好きなのです。<中略> なぜかはわからないけれど、僕にとってはそういうことが面白くてしょうがないのです。いつまでやっていてもちっとも飽きません。            
『職業としての小説家』P153より

ぼくがここで使うトンカチ作業はあくまで修正なので若干ニュアンスは違いますが、抽象であろうが具象であろうが修正指示に対して言葉を変えたり順番を入れ替えたりといった作業で打ち返す、というマニアックな営みという点においてはあながち大外れでもないかと。

さらにポジティブマインドでこの作業にあたっていくうちに、元の文章に入った赤字を大きく凌駕する表現が見つかることがある。ぼくはこれを見つけることこそがプロのライターの仕事だとおもうんですね。

修正が入ったら、その修正を超えるグッドな表現に仕上げて再提出する。言われたとおりの修正なんかくそくらえだ。

こういう目標を自分の中に持つことって大事かと思います。

さいごに

と、いうことでぼくが商業文章を書き続けてきて、そしてヘタクソなばかりにたくさんのお客様から修正をいただき続けてきた中で確立した自分なりの気持ちの持ちようについてツラツラと書き連ねてみました。

振り返るとたくさんのお客様からの修正がぼくを育ててくださったのだなあ、と本当に感謝してもしきれません。もちろん場面場面では傷ついたり、凹んだりもしました。またどう考えても理不尽な赤字に最後までポジティブになれずに入稿した原稿もあります。

でも、おおむねいつも赤字には助けてもらえていると信じています。

最後の最後に、ぼくの極めて個人的なおまじないをシェアして終わりたいとおもいます。

ぼくは、自分の書いた文章にこっぴどい赤が入ってきたとき、担当者が男性の場合松本人志さん、女性の場合新川優愛さんだと思いこむようにしています。あのまっちゃんから赤入れられたら、そりゃオレの文章はおもんないわとおもえるし、新川優愛ちゃんから赤字を入れられたならすごい勢いで意図を汲んでさらによい表現を探します。

こんなことでも結構、プラスに働くほど、意外とメンタル大事な仕事だったりするんですよね。求人広告のコピーライティングも。求人広告以外のライティングも。がんばろうね、みんなたち。

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