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効果の出る求人広告クリエイティブは繰り返し使うべし

はるか昔、消費財広告の仕事をしていたとき。

ボスがやたら「年間キャンペーン」をやりたがっていました。

アウシュビッツだとか不夜城だとか、そういう不名誉なレッテルばかり貼られていたぼくの事務所は、規模が小さいこともあり、ショット案件が中心。しかもほとんどコンペ。それはそれで一発勝負の漢気あふれる仕事でしたが、ボスとしては不満そう。

いいじゃんショットで。キャンペーンなんかダルいじゃん。そんなふうに不遜におもっていたヤングなぼくはある日、殴られることを覚悟の上でおもいきって聞いてみました。

「社長、どうしてキャンペーンがやりたいんですか?」
「あ?んなもん決まってんだろうが(怒)」
「やっぱりアドフラとかに取り上げられるから?」
「バーカ、キャッチ一発で一年いけっからだよ、楽だろ?」

いったいこの人は何を考えて広告の仕事をしているのだろうか、などということはおくびにも出さず「なるほどですね!そういわれてみればそうですよね」とお調子よく話をあわせるのがやっとの足軽な俺。

ちなみにアドフラとは当時、イケてる広告やキャンペーンを取り上げていた月刊誌『アドフラッシュマンスリー』のこと。ACCとかTCCよりは権威性は低いけど、プロダクション選択時の判断材料にされる作品集でした。

それから数年後。

夜逃げして一度は足を洗ったコピーライターの世界に、求人広告とはいえ戻ってきたぼく。過去に紙媒体で求人広告を作った経験はあったけれど、Web環境での制作ははじめてです。視るもの訊くことすべて新鮮な中で、疾風怒濤の量産体制に入らざるを得ません。

それはもう、しゃべるように書いていました。一日最低3本。多いと5本ぐらい?打ち合わせしてはコピーを書き、コピーを書いては打ち合わせをし。一本トータルで6000文字ぐらいになるんですが、一応きちんとターゲット、コンセプト、アプローチアイデアを考えて作っていたので、本当に息をするようにコピーを書かないと間に合わないのです。

いまだから告白しますがあまりにも忙しくて「グルメドール」というクライアントと「グルメハウス」というクライアントの社名を間違えて書いてしまい、担当営業が「グルメドールってなに?うちグルメハウスなんだけど」と嫌味を言われまくったというブラックエピソードも。

そんなことも「スマンスマン」でなんとかなっていた平和な時代でした。

■ ■ ■

そんなある日、某パチンコ店の求人でめったやたらと効果がいい広告ができた。それまでどこの媒体で出しても、誰が広告をつくっても、うんともすんとも応募がなかったパチンコ店の社員募集。そこに掲載開始から4週間で120名の応募を集めることができた。

いまなら何故そんなに効果が良かったのか、ある程度分析できますが、当時はとにかくやみくもにやっていたので、自分自身よくわかっていません。120%感覚だけでやってましたからね。

でも応募爆発だし、実際の採用も二ケタできたし、クライアントは大喜び。担当営業は年間チケットを売ることができて月間MVPに輝いた。当然社内の広告賞も獲った。みんな幸せなわけですよ。つまり、その広告はとてもいい仕事をしたわけ。掲載終了日まで効果も持続していました。

なのに。

なのにですよ。

「ハヤカワさん、クライアントが次回掲載の広告表現の打ち合わせをしたいって」

え?なんで?
ええやん、このコピーで。
効果出てんのに。

「そうなんですよ、それは僕もそう言ったんですけどねえ、やっぱり先方は掲載の度に広告は変えたいって」

いやいやいや、効果出てる広告を変える意味、わからんのやけども。

ぼくはそこでふと、アウシュビッツのボスのことをおもいだしました。ボス、あなたがいいたかったのはもしかしてこういうことでしたか?ちょっと違うか?まあいいや。今は目の前のナンセンスな話にケリをつけなくちゃ。

「じゃ、次の広告で効果でなかったらどうするの?」
「やだなあハヤカワさんに限ってそんなことないっしょ」
「身に余る高評価をありがとう。ってアホかお前」
「クライアントは掲載料払ってるんだから、変えろって」

ひとは想像を超える環境に立たされると木村拓哉になります。チョマテヨ。そもそもの話がおかしくないか?クライアントは求人広告を掲載することにお金を払っているの?違うよね。クライアントは採用するためにお金を払ってるわけでしょ。求人広告をつくったり掲載したりするのはあくまで手段というか採用するためのプロセスじゃんね。

と、いうようなぼくの説明もむなしく営業クンはただただニコニコして「まあそうはいいますが、そこはホラ、サービスでもありますし」と聞き入れてくれません。

それどころか営業責任者を呼んできます。営業責任者は『いなかっぺ大将』の西はじめそっくりの口調で「ハヤカワちゃん、そう出し惜しみせんでサ、いっぺん成果出してるわけやから肩の力抜いて、ほら、それーって感じでサ」とグレイシー柔術ばりの寝技をかけてきます。

「掲載費に制作フィーって入ってるんですか?」
「ウチは制作費もインクルードされとるな」
「インクルードっていえば聞こえはいいけど…」
「とにかく年間で四ケタいただけたんだし」
「そうですよハヤカワさんサービスサービスゥ!」

お前はミサトさんか!とツッコもうかとおもいましたが、もうこのへんでクタクタになってあきらめました。ほんと、泣く子と求人広告の営業には勝てません。

■ ■ ■

と、まあ、軽いタッチで思い出をご開陳しました。これ、ぼくが所属していた会社特有のことならまだわかるんですが、いまの会社に移ってからも求人事業部の営業から似たような話を聞きます。なので、もしかすると求人広告業界全般にはびこっている悪習かもしれません。

なぜ効果が出ているにも関わらず、掲載ごとに求人広告を変えようとするのか。もしそれが媒体側からの提案だとしたら完全に本質を見誤ったサービスだし、クライアントからの要求だとしたら不毛なオーダーですよね。

そしてそれが「前金だから」というビジネスモデルに起因しているとしたら、それこそお門違いな、求人広告クリエイターにとってははた迷惑な話でしかありません。なんで営業上の課題を制作が拭わなきゃならんのよ。

効果が出ているクリエイティブはいたずらに変えないこと。効果が落ちてきたタイミングでその原因を分析し、適切な打ち手を次回掲載時に打つこと。この当たり前のことを徹底するだけでも求人広告制作の現場は少し風通しがよくなるんじゃないかとおもいます。

ちなみに例のパチンコ店は二回目の掲載でまったく異なるアプローチを試した結果惨敗。大目玉を喰らった担当者はあわてて初回の広告に変えました。それでようやく効果が戻り、それから一年半もの間その会社の募集原稿はアンタッチャブルということになったとさ。やれやれ。

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