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或る日曜日の午後
休みの日はたいてい、昼すぎから呑んでいる。
クルマに乗る用事はすべて午前中に済ませる。
そのために朝4時過ぎに起床する徹底ぶりだ。
昼すぎから呑むことのメリット・デメリットについて考えてみよう。ちなみにこの言葉をメリデメと略すのが意識高い世界ではマストらしい。
「この企画、動かした時のメリデメ、教えてよ」
「それを弊社が請けるメリデメ、考えてみろよ」
「やるやら確定のためにメリデメ、要検討です」
メリデメのあとに半拍ほどの読点を入れるのが意識高い風ビジネスパーソン、略してビジパーのお気に入りのようだ。そしてこの手の単語は略すたびにIQが下がっていくように思えるのはなぜだろうか。
本題に戻ります
昼呑みのメリットとして誰もが最初に思いつくのは、気分がいいことだろう。科学的なエビデンスを見たことはないが、確かに陽の高いうちから口にするアルコールは気分を高揚させてくれる。
乾杯、からの大きなひと口でビールを流し込む。プハーッ!のあとに思わず「うーんプライスレス」と口にする諸兄姉もいるはず。
さらに比較的酔いやすいということもあげられる。アルコールの回りがいいというか、スムーズに酔っぱらえる。だからといって泥酔するわけではなく、どこか意識はきちんと保てている。酔ってんだけどいや俺はまだまだいけるよ、若さだよヤマちゃん、みたいな感覚はたまらない。
晩ごはん不要という点もメリットかもしれない。昼から呑むときはまず、しっかり腹にたまるものを一緒に口にするケースがほとんどだろう。昼から呑むのに酒オンリーという人がいたらアル依症の疑いがみられる。自重を促すものである。
続いてデメリット。ハシゴ酒になりやすく、一店舗ごとの支払いは安くとも結果として結構使ってしまうこと。二軒目、三軒目と河岸をかえるごとにお通し代がかかる。しかも三軒目以降では酔うのに忙しくてお通しに手をつけない場合もある。もったいない。
また酔ってふだんづかいの店に足を踏み入れてしまうこともデメリットかもしれない。自分の場合だと酔っ払った状態で本屋やコンビニなどをふらふら歩き回るのが好きだ。しかし気が大きくなっていることもあり、さほど必要でないものも買ってしまったり。これはいかん。
夕方に帰宅したままバタンキュー、とベッドに倒れ込むのは気分いいが、変な時間に目が醒めるのもよくない。喉の乾きなどを覚えて起きると23時40分みたいな。そのあと妙に頭が冴えて寝れなくなることも。
総じて飲みすぎて、翌日いちにちしんどい。このあたりは日曜の昼呑みにありがちなシチュエーションだ。月曜日が嫌いになりたい人におすすめである。
こうやって見るとデメリットのほうがやや勝っているかな?
いや、それでもぼくは昼呑みを辞めない。休日の昼呑みは最高だからだ。
最近のお気に入りコース
ここのところハマっている昼呑みコースがある。曜日は日曜日。天気は晴れ。気温は26度ぐらいがいちばんいい。朝から用事を済ませ、洗濯も終え、シャワー浴びてサッパリした状態。
午後2時前後、おもむろに上野広小路駅にあらわれるぼく。春日通りを挟んだ松坂屋の対面にその店はある。
『まぐろ人 上野広小路出張所』
ここはいわゆる立ち食い寿司の店である。しかし立ち食いであることを忘れさせてくれるほどハイクオリティな寿司を喰わせる店でもある。
こうみえてわたしは高い寿司を人の金で喰ったことがある。安い寿司なら嫌というほど自腹で喰って腹を下したこともある。つまり寿司のまあまあ上から思いっきり下まで経験してきている。
そんなわたしが言うのだから、まず信用してほしいのだが、ここ『まぐろ人 上野広小路出張所』は旨い!値段の割に、という言葉は使いたくないのだが本当に美味しいお寿司を喰わせてくれて、お会計がやさしいのだ。
まずネタがいい。多くの旬なネタは基本、塩で喰わせてくれる。鮮度と味に自信がなければできないだろう。一方で定番ともいえる光り物には丁寧な仕事が施されている。
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ここでは醤油皿を使うことがほぼないのである。
そしてビールからハイボール、サワー、日本酒まで幅広いラインナップのお酒類。ぼくはここではビールで押し切る。寿司にビールだなんて野暮じゃね?と思われるかもしれないが大きなお世話、ビッグケアである。
白いかやすみいかからはじめて、イサキ、キンメ、カツオなどその時々の旬なネタへ。さらに光り物3点盛りを経て、好物のえんがわを。さらに赤身、穴子3点盛り、そしてその日いちばん美味しかったネタをリピート。
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最後にトロたく手巻きで締める。
トロたく手巻きは職人さんが必ず「大葉いれちゃっていいですか?」と確認してくれる。この確認がなくなるほどには通いつめなければならない、と決意をあらたに店をあとにするのであった。
酔いのるつぼへ
まぐろ人を出てほろ酔い気分でJRの線路沿いをそぞろ歩く。アメ横商店街である。ここは上京したての頃によく歩いた。その頃からあまり変わっていないのがすごい。干物の匂い。革の匂い。デニムの匂い。アメリカなんだかアジアなんだか、国籍不詳のごった煮的な臭いが漂う街だ。
そのまま上野方面にしばらく歩くと、次の目的地があらわれる。
『もつ焼き 大統領 支店』
35年前はおっかなくって立ち寄ることすらかなわなかった、上野ガード下の大衆居酒屋『大統領』。ガード下の本店から30秒の位置にある支店がぼくのお気に入りである。
ここなら「本店はディープすぎてちょっと…」という世田谷区岡本在住、聖ドミニコ学園卒の社長令嬢でも気持ちよく付き合ってくれるはずだ。
基本的にいついっても店内はごった返している。わんさか客が入っていて、しかもほぼ全員が酔っ払いだ。酔っ払いのゴンズイ玉、といえば太公望にはわかってもらえるかもしれない。
表通りまで張り出したテーブルでわいわい騒ぐ若者グループ。その隣で小さくなって呑んでいる中年夫婦。かと思えばカウンターでひとり、本を読みながらもつをつまむ紳士。とにかくいろんな属性の人間が、たったひとつ、酒を呑みもつ焼きを喰うという目的で集まる稀有な空間である。
基本的に何を喰っても旨いが、絶対に外せないのはもつ煮。注文からわずか30秒ほどで提供される。豚バラねぎま、うずらの卵も旨い。ふだんなら料理をパシャパシャ撮るのだが、大統領ではそうはいかない。
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なにしろすでにいい感じで酔っているからだ。
酒はスタートこそ生ビールだが、おかわりはしない。二杯目からはハイボールあるいは定番のホッピーで決まりだ。ホッピーは中のおかわりをしようものならえらい濃いヤツがやってきて思わず狂喜乱舞してしまう。
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ポイントは入店するとき。カウンターがあいていてもよほどの常連でない限りそこには座れないお店にはお店ごとの流儀があるのだから間違っても「そこ空いてるよね」などと無粋な事は言ってはならない。
めちゃ混みの店内に恐れをなすと同時に、順番に案内するから奥の椅子に座って待て、という指令を受けて目線をやるとそこには長蛇の列。「無理だ」と諦めてしまう人が少なくない。しかしこれは大きな間違いである。
テーブル席が充実した2階席があるのだ。そして思いのほか回転がいいのである。丸いパイプ椅子に腰掛けてものの3分もすれば「こちらどうぞ」なり「2階どうぞ」と案内してもらえる。
その先には極楽のもつ天国が待っているのだ。少しぐらい待とうではないか。
こんなふうに
御徒町や上野界隈にはふらっと入ってパッと呑んでサッと次の店へ、という遊び方ができる店がわんさかある。こういうところでスマートに飲み食いできることは、ひとつ東京人の身ごなしとして会得しておいて損はない。
そして若いおねえちゃんもP活などと小賢しいことをほざきながら東カレで紹介されている港区女子御用達のレストランでばかり腹を満たしてないで、たまには煙がたちこめるアメ横でへべれけになってひっくり返ってみてはどうか。
人生がちょっと面白くなると思うんだけど。
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