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いいなあ、と感じる求人広告

求人広告制作にどっぷり漬かっているとき、いつもなにをベンチマークしていたかというと、求人広告ではありませんでした。むしろ求人広告は見ていなかった。それよりも映画やテレビドラマ、小説、演劇、音楽を表現上の競合としてみなしていました。

琴線に触れる表現に出会うと、鳥肌が立つじゃないですか。感情が波打ったのち、涙や震えといった体の変化をひきおこす。そういった表現物とぶつかるたび、悔しい思いをしていたんです。

俺の作る求人広告は、ここまで人を感動させられるだろうか。俺の作ってきた求人広告は、こんな風に泣かせる力があっただろうか。そんなふうにいつも、いつもおもっていました。

もちろん純粋表現や芸術作品と、求人広告はまるで違うステージにおかれています。そんなことはわかっています。わかってはいるんですが、その上で、勝負したい。いやいや商品広告ならまだわかるけど求人広告で、っておかしくないか。そんなふうに言われることもありましたが、ぼくはいたって真面目に、同じ目線で戦いたいと思っていました。

そんなぼくの視界にも、何年かに一本ぐらい「いいなあ、この求人広告」と思わせるものが入ってきます。そしてそれはだいたい、求人メディアの外で見つかるので、いつも悔しいおもいをしていました。

今回はそんな“嫉妬しちゃうほどいいなと感じる”求人広告を紹介しますね!

Google ビルボード求人広告

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これは結構有名な求人広告ですね。郊外のビルボードに数式だけが書かれています。これを説いた答えに「.com」を付けて検索するとそこに待ち受けているのはGoogleのエンジニア募集告知。ここに辿り着けることが、まず第一の採用要件なんだ、という世にも上から目線(?)な求人広告です。

このメッセージを受け取った世の天才秀才はこぞって数式を解き、エントリー画面から応募したんだそうです。しかしこれ、掲載場所がビルボード、というだけで、求人広告の表現手法としてはオーソドックスです。古くからある手ですね。ほら、アーネストシャックルトン卿が新聞に出した南極探検隊隊員募集の求人広告も同じ手法でしょう?

もうひとつ最近知ったのは、結局、この広告では採用できなかった(あるいはすぐに辞めてしまった)とのこと。その結果もまた、求人広告出身者としては考えさせられるものでした。

長崎バス 80周年記念広告

長崎バス①-1

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長崎自動車が創業80周年を記念したつくったテレビCM、グラフィック広告。周年広告であると同時に人手不足に悩むバス運転手の募集広告も兼ねています。しかし軸足を周年記念に寄せることで予算を獲得し、ADに副田高行さんを招聘。大きなキャンペーンに仕立てたことで、こちらのコピーを担当した渡邉千佳さんはTCC最高新人賞を受賞します。

ここで紹介したグラフィックは役所広司さんの横顔ですが、シリーズ広告としてバスの出発前点検、朝の通勤通学、昼間の老人、夕方の帰宅シーン、夜の入庫など、バスと街の人、あるいは運転手を取り巻くストーリーを切り取って表現した「スライス・オブ・ワーク」のお手本のような広告です。

バスやタクシー、トラックといった運転手募集は本当に苦労します。母集団形成が難しいんですね。しかも給与額や休日といった衛生要因での訴求はすっかりやり尽くされてもはやマヒしています。ゆえにこういったストーリー仕立ての表現にならざるをえないのですが、この長崎バスが秀でていたのは抑揚を押さえたトンマナ。とにかく静かな筆致なのです。

お涙頂戴にならないよう、最低限のマインドのゆれをおさえて言葉に置き換えているあたりが「うまいなあ」と舌を巻いたものです。

トヨタ自動車 駅貼りポスター

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これも結構話題になったので、ご存知の方もいらっしゃるかもですが。当時、あのトヨタがずいぶんとエッジの効いたというか、攻めた求人広告を出したものだ、と業界を賑やかしたシリーズ広告です。

なにがすごいってこのポスター、南武線の沿線にのみ掲出されていたんです。その理由は、南武線沿線に軒を連ねる大手電気メーカーの研究所や開発施設。当然、この路線にはそういったメーカーに勤務するエンジニアが多数住んでいるわけで。住んでいないとしても通勤で使う以上、広告に接触する機会が多いといえます。

と、いうことはかなりの「潜在的な転職意向者」にもアプローチができることになり、自然とより多くのパイにリーチが可能になるわけですね。この広告が出たとき、求人コピーライターの間ではその表現に目を向けるコメントばかりだったのですが、ぼくは、表現はあくまでおまけで、掲載する場所のゲリラ的でありながら計算しつくされた仕掛けに舌を巻いていたのでした。

「人がいないんだよね」「紹介会社に出してるけど全然集まらないんだよ」こう嘆く求人企業の採用担当者はたくさんいますが、まず求職意向者を「育てる」ところ、もっといえば種を巻くことからはじめないとだめなんじゃないですか?なんて提案したりもします。

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と、いうことで、ぼくが「いいな」と思った求人広告を3つ、ご紹介いたしました。いいクリエイティブは平面ではなく、立体的なところから生まれるなあとつくづく思いました。つまりデスクにしがみついていては、ディスプレイとにらめっこしていては、実体感のある求人クリエイティブは見つけられないんですよね。

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