求人広告コピーに著作権はあるか
求人広告制作関係者にのみ向けて書いているこちらのnoteですが、今回は著作権について。
普通に生活しているとあまり縁のない著作権。これが一旦、なにかものをつくりはじめると途端に身近なものになるから人生はおもしろいです。いったいなんなんだ著作権て。ぼんやりわかってる気がするけど。
著作権(ちょさくけん、英語: copyright、コピーライト)は、作品を創作した者が有する権利であり、また、作品がどう使われるか決めることができる権利である。 作者の思想や感情が表現された文芸・学術・美術・音楽などを著作物といい、創作した者を著作者という。 知的財産権の一種。
ーーーwikipediaより引用
当然のことながらコピー、つまり広告文案はここに当てはまる?当てはまらない?どちらでしょうか。
原理原則で考えると、広告とは企業が自社のサービスや商品を告知するものなので、制作者はあくまで代理人ということになります。だから広告文案の著作権は企業にある、と考えるのが自然のような気がします。でもその反面、企業は創作していないし作者でもないわけですよね。
広告のコピーに著作権はあるのか、ないのか。なんでもかんでもググレカスの時代ですのでその波に乗っかって「広告コピー 著作権」で検索してみました。
堂々の検索結果最上位はインプレスさんの『Web担当者フォーラム』。さすがですね。SEOもバッチリです。
「有名なキャッチコピー・キャッチフレーズには「著作権」がないから、勝手に使っていいの?」というタイトルの記事によると、結論、短い文章は著作物には該当しないそうです。
そもそも著作物たるには「創作性」が認められる必要があるとのこと。キャッチフレーズのような短いフレーズは使う場所や場面においては新鮮だったり強い力を発揮しますが、ことば自体は日常的に使う単語の組み合わせなので、特に目新しさもなく、著作物として認められない。
うむむ、でも言われてみればそうですよね。ごく当たり前の、誰でもわかる単語を使わないとコミュニケーションできないもんね。
「想像力と、数百円。」も「おいしい生活。」も「くうねるあそぶ。」も。
組み合わせや置かれる場のクリエイションが光っているけどひとつひとつの単語自体はいたって普通だし。
そうか!そうなのか!キャッチ1本1000万みたいな一般広告コピーに著作権がないんだったらそもそもクリエイティブフィーが掲載料にインクルードされるような実質タダ働きの求人広告コピーなんて、なーんの権利も持っていないに等しいよな。
じゃあ苦労してコピーなんか考えるのはやめて、他の会社で使われているコピーの中からヨサゲなものをパクっちゃえ!そうしたらクリエイターなんか雇わなくていいし、手間も時間もかかんないしね。
■ ■ ■
時を遡ることいまから19年前。ぼくはネット専業求人広告の会社に勤めていました。そしてある東京都下のシステム会社の求人広告をつくりました。
営業マンのヒアリングスキルが低いこともあり(本当にひどかった)特にこれといったベネフィットが見つからなくて苦労しましたが、四回目ぐらいの再取材で経営者がエンジニア出身だったことがようやくわかった。
(当時、あまりにもひどい取材をする営業にはもう一回聞いてこい!とスパルタンに接していたんです。いまならパワハラですねごめんなさい)
なのでその事実をメインの訴求点にして求人広告を作成。いいことが多いんですよ、エンジニア出身の社長のシステム会社は。逆に営業出身者が社長だと売上はいいかも知れませんが案件がムムム…ということが多いのね。
そんなこともあって応募効果もまずまずで、無事に3名ほどの技術者を採用できました。
それから数カ月後、開発の責任者と営業の責任者がなにやら不穏な表情で話をしています。どうしました?と上司である開発責任者に聞くと、例のシステム会社が競合の求人サイトに広告を出しているといいます。そこまでならまあある話。しかし、どうやらその広告がぼくが作ったものとまるっきりおんなじだ、というのです。
パクリ?そんなふうに思った瞬間、社長室に呼ばれました。
「おい、聞いたか?これ」
バサッと競合のサイトのプリントアウトを投げ出します。見るとたしかにぼくが書いたコピーが、あまり馴染みのないデザインのWebページにレイアウトされています。
「は、はい。これは…」
「パクられとるな」
「はい」
「はいやないやろ、パクられとるやん」
「はあ」
「はあて、お前、どういう気持や」
どういう気持かと聞かれたので正直な胸のうちを明かすことにしました。
「なんか、こう、アレなんですが、ちょっと誇らしいというか、オレもパクられる地位まできたのか、と…」
するとどうしたことでしょう、社長は怒髪天を衝く様な形相で「お前アホか!パクられてええ気分になっとるってどんだけアホや!このどアホ!死んでまえアホが!」といまなら当然パワハラで最高裁までいける罵詈雑言を吐きながらプリントアウトを丸めてぼくの頭を叩きました。
デスクに戻って上司に更に詳しく聞くと、どうやらパクリは今回が初めてではなく3回目なのだそう。1回目は電話で注意して、2回目は呼び出して直接クレームをつけたのにも関わらず、シレッとみたび掲載したとのこと。営業責任者は相当頭に来ているのか、いまから弁護士のところにいく、と鼻息を荒くして出ていきました。
「ハヤカワちゃんにもこのあと、協力してもらいますからね」
上司はそういうと、めんどくさいことになりそうでいやっすね、という表情をみせました。
■ ■ ■
その後ぼくは弁護士の先生から2回ほどヒアリングを受けました。弁護士は繰り返し業務フローについて訪ねました。どういうプロセスで広告がつくられるのか、作った広告はどんな流れで承認されて、掲載されるのか。
そのなかでいちばん回答に悩んだのが、創作性の発揮の仕方についての確認でした。
「ではハヤカワさんの頭の中でどういうことが起きて、この文章になったのですか」
「どういうことが、って言われても…」
「ここの文章がクリエイチブ、ってことなんですよね」
「あ、いや、そうなのかなあ、そうなのか?」
「だったらどうやってつくっているかわかっているはずですよね」
「あいやー、それはそうなんですけど」
気分はほとんど『前略おふくろ様』のショーケンです。しかしまあ、弁護士からしてもまったく要領を得ない回答ばかりのぼくに手を焼いたことでしょう。クリエイチブ、という言い方になんとなく小馬鹿にしたものを感じてしまいました。
個人的にはパクられてたってなんだって別にどってことない、と思っていたので、周りの人たち、特にビジネスサイドのお歴々のエキサイトぶりがちょっとよくわからない感じでした。
それよりも仕事が終わった21時過ぎから飯田橋の弁護士事務所で尋問されるという非日常的なイベントにちょっぴり興奮していたんですね。それ以外のことは、当時のぼくの興味の範疇外でした。
それから3ヶ月だか半年ぐらい経った頃、広報担当が「勝訴!勝訴です!」と、例の勝訴ポーズ(ほら、両手で勝訴と書かれた紙を掲げるヤツです)をしながらオフィスに入ってきました。
ぼくはそれまでどんな内容の裁判を起こしているのかもしらなかったのですが、どうやらぼくの書いたコピーはフレーズごとではなく、全体として創作性があると認められたんだそうです。
そして、ぼくの勤める会社が件の競合サイトを運営する企業にもろもろの損害賠償として5720万円を請求したにも関わらず65万円で手を打てと。もう爆笑じゃないですか?なんやねん勝訴て。
正確には金65万円及びこれに対する平成15年2月27日 から支払済みまで年5分の割合による金員なんですけど、ぼくにはなんのことだかさっぱりわからないし、いずれにしても大した金額ではないでしょう。興味もないわ。
まあ、そんなことよりも、このことがきっかけで日本という国に(大げさ)求人広告の創作性を認めていただけたと同時に全体として著作権は存在する、という判例をつくったんだということのほうが、なんだか自分にとってはしみじみと面白い出来事でした。
そしてみなさん、求人広告もやっぱりパクったらいかんですよ。っていうか、パクってコピー書いても誰もなにもひとつもトクをしない。いいことがまったくない。やっぱりコピーはきちんと足で書いて、汗をかいて、恥をかいて上手くなりましょうね!
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