見出し画像

あきないからあきない

なんとなく採用広報の文脈でインタビュー記事の仕事を請けるようになってから10年近く経つ。

会社員のくせに個人で仕事を受けてギャラはすべて会社に入れるという、それはおまえつまり副業なのかい?というスタイルだが、いまではすっかり誰もツッコまなくなったのだから人生はラブ イズ Cashである。

10年もひとつのことをやっていると周囲からはベテランと言われることも少なくないが、本人はいたって緊張の連続。いつもドキドキ、膝ガクガク、唇ブルブルというココイチのとび辛表における「5辛」みたいになる。

しかしいい加減いつまでもアマチュアリズムを引きずっているのもいかがなものかとも思う。

もう少し熟練の、というか練達の、いぶし銀の技とでもいおうか。なんかこう何事にも動じないドッカとした落ち着きと自信がほしいものである。

そう、自信がほしいねぇ。

あ、自信がないことにかけては自信があります。本当に自信がない。自信がないからここ一番でフルスイングできない。

この渋谷凪咲さんという若い女性の方が言っていることは実に共感できる。たぶん自信がない談義をしたらいい勝負だとおもう。もちろん勝てる自信はない。

いまでも今回の仕事は上手くいかないんじゃないか、とか、期待にまったく応えられていないのでは、という悪夢を昼から見てはうなされる。

ウナ・サレ・ディ東京なのです。

まあ、しかし、いつまでも慣れないおかげで事前準備を怠ったり、取材前夜に深酒して二日酔いで取材に臨む、取材対象を怒らせてしまうといったおっちょこちょいなミスは避けられている。

ある孫弟子がインタビュアーの立場にも関わらず帽子をかぶったまま腕や足を組んでインタビュイーと話している画像を掲載しているのを見て、こいつ調子に乗っているな、と思った。その後、界隈で彼のいい話を聞かない。業界は狭いのだ。反面教師である。

あと、ぜんぜん飽きないです。

おそらく頭の回転が早く、なんでも効率よく能率よくササッとこなせる人や、正解を見つける能力が高く無駄な思考を排除する優秀な人であればとっくに飽きていることだろう。そういう人は飽きた先に何人ものライターを動かしてより早く、安く、たくさんの記事を生産する仕組みを作り上げたりするのだと思う。

過去、いくつかのスタートアップに呼ばれてはこの仕組みをどうやったら作れるのか相談に乗ってほしいと言われた。その度に(またか…)と心の底でぐったりしていた。

残念ながらぼくはそういうタイプではないのだ。

それどころか毎回、完成した原稿が掲載されたあとにも(ああ、ここはこうすればよかった)(ここはもっといい表現があるんじゃないかな)と三歩下がって二歩下がるタイプ。おおよそ効率や仕組み化や生産性というものとは縁のない村で暮らしているのである。

おかげで10年やってもまったく飽きません。

飽きない、といえば前職で求人広告の制作部門に所属していたとき。

上司は元コピーライターでありながらビジネスの才覚もあり、5年連続赤字続きの弱小事業部をたった1年で年商1億まで立て直し、そのまま本体の求人広告代理店からスピンアウトさせたという、できる男でした。

できる男にとって求人広告のコピーライティングは単なる通過点だったようで。私にはスタートだったのあなたにはゴールでも、という何も言えない夏がはじまります。

ことあるごとに「こんなんいつまでもやっとったら飽きますやん、ねぇ」とかうだつの上がらないロートル制作マンを指して「あいついつまでやってんねんよう飽きひんな、ねぇそう思いませんかハヤカワちゃん」と成田三樹夫のような笑顔で同意を求めてきます。

もちろんぼくはお調子をあわせて「ほんまですなあ」と返していました。だって敬愛する上司に嫌われたくないもん。

だけど正直にいうと、ぼくはまったく飽きてなかったのです。

いまでも「お忙しいところ申し訳ございませんが、ひとつ求人広告をつくってくださいませんか」と社内の人間に頼まれるのですが、よろこんで引き受けます(ときどき物理的に無理なこともありますが)。

何年か前に前職の後輩が立ち上げた会社の求人広告をつくったらその会社のナンバー2がひっくり返った、ということもありました。

つまり飽きてない。飽きてないよ。それはインタビュー記事も同じです。

飽きない仕事なのか、ぼくが飽きないだけなのかはわかりません。だけどいつになってもいくつになっても飽きずに続けられる仕事って、われながらいいなと思います。

とはいえ、ぼくもいつかこの仕事から身を引く時がくるでしょう。

情報や表現に関係する仕事というのは、芸術と違って賞味期限があります。古いより新しいほうに価値が置かれます。

だからそう遠くない未来にまったく違う種類の仕事に就くことになると思うのですが、願わくば次に出会う仕事も飽きないものだといいな。飽きない仕事だからこそ、商いになるわけですから。

【おまけ】
ちょっとまじめな話をすると「飽きない=商い」ってあながち言葉遊びでもないな、と思っていて。なにかひとつの仕事をはじめるときって少なからず初期投資が発生しますよね。例えばインタビュー記事なら数回におよぶ出し戻し(修正対応)なんかも含まれます。で、あれば飽きるまでの時間が短いより長いほうが確実に初期投資回収ができて、どこかのタイミングで損益分岐点を超えると思うんです。3時間かかっていた仕事が2.5時間、2時間、1.5時間へと短縮され、かつ修正回数も減っていくけどギャラは変わらずみたいな。商いの基本は利益にあり。つまり飽きないほうが商いになりやすい。経営や経済のド素人なりに、そんなふうに思ったりしています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?