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筆記具はつづくよいつまでも

なにごともカタチから入る性格のぼく。コピーライターになろうと決めたその日から『筆記具』へのこだわりがはじまりました。そして32年の月日が流れ去り、街でベージュのコートを見かけると、指にルビーのリングを探すのさ、あなたを失ってから。いい歌ですね、ルビーの指環。

振り返ってみれば鉛筆からワープロ、パソコンへと文字を書くツールは格段の進歩を遂げています。しかしだからといって古い時代の筆記具が滅びたかというとそんなことはありませんよね。

実際、いまだにぼくは手書き率ハンパないです。スケジュール管理も、アイデア出しも、コンセプトワークも紙とペンじゃないとできない。

単純に「慣れ」の問題で、いきなりPC上で作業してもできるとは思うんですが、それをわかっていてもやらない。たぶん手書きを経たものと、そうじゃないものとの間には、目に見えない違いが生まれるとおもうんですよね。

たとえば、紙に一度書いた言葉をPCで清書します。パワポとかワードに。そうすると手書きとは違った表情を見せてくれますよね。良くなることもあれば、そうじゃなくなるケースもある。いずれにしても、その言葉の置いてある場所が変わることで、ひとつ思考が重なることは事実です。

と、まあアレコレそれっぽいことを後付けで言ってますが、要するに筆記具好きなんです。そこで社会人デビューしてからの自らのペン歴を辿ってみようとおもいます。

目黒広告代理店駆け出し時代

コピーライター一年生のときはまだワープロも存在しない世界でした。いや、あったはあったんでしょうけど、とてもとても庶民のリーマンには手が届かなかったはずです。

当然、駆け出しの頃はカネもないので会社支給のボールペン、となるところですが、そこはほら、一年坊とはいえどもクリエイター。イキって『ロットリング』とか使ってました。

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ロットリングの0.5なんてそんなもん、コピー書くのに向いてないじゃないですか。さきっちょ細いし。でもだいじょうぶ。ダメになったらすぐに「デザイナーの◎◎さんからの依頼です」と総務にウソの申請を…というのも懐かしい思い出です。

六本木アウシュビッツプロダクション捕虜時代

22歳から25歳までの3年間、ぼくは“六本木のアウシュビッツ”との異名をとっていた制作プロダクションに収容されていました。何がアウシュビッツかというと、月曜日に会社に行くと翌々週の木曜ぐらいまで平気で帰れない。膨大な仕事量と、鬼のように厳しいボスからいつまで経ってもコピーにOKが出ない環境だったのです。

そこでは捕虜であるわたくしのような身分のものにもワープロを与えていただけました。でもですね「ワープロは最後の武器だ!われわれは忍者部隊だ!」とか言いながらアイデアや企画やコピーのドラフトはコピー用紙の裏側に手書きで書いていました。バカですね。

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当時、ぼくとともに何徹もしたのがぺんてるの『ボールPentel 0.6』。ちょっと太めで書きやすい。

ちなみにコピー用紙の表側は当然ですがボツになったコピーでした。そしてぼくは書いても書いてもボツでした。つまり裏紙を大量に生産していたんですね。よくボスに口汚く罵られたものです。

池袋西口居酒屋店長時代

アウシュビッツを脱走したぼくは記憶を失い、気づけば5年もの間水商売に身をやつしていました。『ピアノマン』ならぬ『居酒屋マン』ですね。

もちろん居酒屋では前職以上に筆記具がマストアイテム。伝票をつける、予約をノートに書き込む、酒や食材の在庫をチェックする、厨房のみんなの似顔絵を描く(しかも悪意を込めて)、麻雀の順位を記録するなど、あらゆる場面で大活躍したのがこの一本。

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過酷な水商売の日常に耐えるタフでヘビーデューティな仕様。そしてなくしてもなくしても痛くも痒くもない値段を誇る、BICの『オレンジEC1.0』です。いまネットで調べたら一本39円!安い!しかもデビューは1961年!古い!俺より先輩!尊敬しかないですね。

新宿西口超高層ビルインチキエリート時代

だいたい『大卒以上・30歳まで』の応募条件に『高卒・再来月には31歳』という規格外れで応募して、9回の面接を経てひっかかって採用という時点でミラクルです。しかも即戦力募集なのに5年のブランク(水商売)。よくぞ採ってくださいました。前職にはお礼のしようもございません。

ここにきて職場にパソコンがデフォ、という世界になります。もう未来ですよ、ミライ。当然筆記具なんて過去の遺物…とおもいきや、相変わらず手書きを捨てきれなかった。

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取材やアイデアメモ以外にもコピーだって下書きはユニボールの黒で。コピーチェックは同じくユニボールの赤。その後、なにを勘違いしたのか出世街道を走りましてですね、気づけば170人を抱える制作本部長ですよ。

その頃ついたあだ名が『インチキエリート』でした。まあ、インチキなのですぐに化けの皮が剥がれます。調子に乗ってモンブランやラミーなどの万年筆に手を出したはいいがあっという間にボロが出て、あっけなく超高層ビルを追い出されるハメに。

渋谷並木橋フリーランスリーマン時代(いま)

歳をとるといろんなものがどうでもよくなる、とはよく聞く話です。でもぼくはその逆で、いよいよ使うペンが絞られてきました。ここにくるまで紆余曲折ありましたが、現在メインで使っているのはこの三本です。

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モンブラン マイスターシュテック。画像はFですがぼくのはMです。太字でなめらかな書き心地。

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モンブランをもう一本。 スターウォーカーをボールペンのようにラフに使い倒しております。

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ラミーサファリ。赤インクをいれて校正などに使っています。メンバーがいたときにはコピーチェックにも活躍してました。 

■ ■ ■

文具、なかでも筆記具は好きな人は本当に好きですし、お金をかけようとおもえばいくらでもかけられる奥深さもあります。沼ですね。

でもそんなマニアックな沼に入らなくとも、毎日筆記具を使うという方ならほんのちょっとのこだわりで書く行為そのものが楽しくなること間違いありません。

これまでペンなんてなんだっていいんだよ、と思っていたあなた。騙されたとおもって色、太さ、素材、デザイン、なんでもいいのでお気に入りの筆記具をひとつ見つけて使ってみませんか?

あれ?なんだかマジメな筆記具協会(そんなのあるのか)のPR文みたいになっちゃったぞ。

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