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Webのテキストはいまでも本当に読まれないか

坂本龍一さんに興味がある人も、特にない人も、まずはちょっとこの記事を読んでみてください。

「Webちくま」という筑摩書房が運営する読み物サイトに連載されている、故・坂本龍一さんに関する回想録です。筆者は佐々木敦さん。ライターの端くれの嗜みとしてわたしはこの方を存じ上げていましたが、年齢が4つしか違わないこと、同郷であることなどは今回はじめて知りました。

坂本さんと個人的な接点も持っていた佐々木さんの手によるこの連載。2023年の7月23日にはじまり、現在も続いています。最も新しい記事は第9回で、YMOの中~後期に話は及んでいます。次回はいよいよ戦メリかな。この調子でいくと来年いっぱいは連載が続きそうな勢いですね。

で、佐々木さんの記事で注目していただきたいのは、その文章量。文章の長さ、文字の多さです。間に画像が挟まることなく続くグレーのマッス。第一回の文字数は驚くなかれ、12475文字です。400字詰めの原稿用紙に換算すると32枚。

これが1回分なのですから、読む方はたまったもんじゃない。

と、思われるかもしれません。

しかし、読む方はたまったものどころか「もっと、もっと」なのです。スクロールが下のほうに向かうのをなんとか止められないかと願うほど。

わたしはまあまあ教授フリークなので、いまのところこの連載に書かれていることの半分くらいは「どこかで聞いたか読んだな」という既知の情報です。そしてさほど読書家ではありません。

なのに、するするりと読めてしまう。

そして「次は?」とおかわりを待つ犬のように次回掲載を待つのです。


あるクライアントの代表とお酒を呑みながら仕事の話をしていたときのこと。

そのクライアントは地方の中小企業に光を当てることで日本経済の活性化を図ろうと奮闘しているスタートアップでした。

わたしは同社のメンバーが日本中から発掘してくる地方企業の経営者のストーリーを読み物に仕立てるという役割で事業のお手伝いをさせていただいています。

あるとき個人的にも応援していた会社の社長を取り上げることになり、つい思いあふれていつもよりも1.5倍ほど文章量が多くなってしまったことがありました。もちろん幾度となく読み返して不要なところ、必要だけどここではいらないと判断した箇所などを削除した上で、でした。

掲載されたあと(やっちゃったな…)とこっそり反省していたんです。

そのことを恥ずかしながらクライアントの代表に伝えると、いいじゃないですか、6000字でも8000字でも、どんどん書いてくださいよ、と笑顔で答えてくれました。

だって地方の中小企業の社長の生の声を聞く機会は貴重なんだから、と。

そういえばいまから5年ほど前、あるマーケティングオートメーションツールの会社でマーケティング初学者向けの記事を担当していたときのこと。

わたし自身の知識やまとめる力が脆弱だったこともあり、1本の記事が8000字を超えてしまうことが多々ありました。その代わり、読みやすさの担保や読者にストレスを与えない配慮は人一倍意識していました。

するとわたしの書いた記事は他の記事に比べてPVは少ないのですが滞在時間と再流入率、読了率でいずれも高いスコアを出していたのです。

これに喜んだクライアントはそのあと2年ほどわたしに記事を書く機会を与えてくださいました。先方の喋っていることをなんとか理解しようと必死に書物やネット記事を読みたおしていたのが懐かしいです。

そのことを思い出したわたしは代表とディスカッションして以下の仮説にたどり着きました。

・地方の経営者はあまり情報発信していない
・記事の読者はあらかじめ対象に興味がある
・文章量は多くても読みにくい文章ではない

最後のひとつは自分で書くのもおこがましいのですが、その時、そういう結論になったのでそのまま記載させていただきます。すみません。

いったんわたしたちの間では上記3つの条件が揃えば長文でも読まれる、場合によっては長文のほうが読者満足度のようなものが高くなるのかもしれない、という仮の結論に至ったのです。

この仮説は今後も分析を続けていきますので、また新しい発見があれば共有したいと思います。


これまたわたしのクライアントの話で恐縮ですが、あるWeb広告を手掛けるベンチャー企業があります。わたしはその会社のコーポレートサイトの社員インタビューをお手伝いしています。

その会社のユニークなところは全社員のインタビューを載せている、ということです。最初に作成したときは15名でした。それが毎年増える度にご依頼いただくようになり、いまでは50名。来年も予約が入っているというありがたいお客様です。

で、この会社のすごいところは、情報を選択と集中しているところ。

公募での採用は新卒のみ。しかもナビサイトは一切使わず、新卒専門の人材紹介を一社だけに絞って長年利用してきました。

人材紹介会社を一社だけ、長期間利用し続けるのは戦略として120点です。採用人数が多ければ多いほど紹介会社にノウハウと知見が溜まります。そして紹介会社からすれば決めてくれる会社は上得意様。優先的に同社にフィットする人材をエスカレーションしてくれるわけです。

そして紹介会社に提出する求人票以外の情報はコーポレートサイトのみ。

こうなるとどうなるか。

候補者はまず間違いなく全員、インタビューを目にします。他に情報がない以上、どんな人がどんな息づかいで働いているかを知るためにはインタビュー記事を読むしかないのです。

おかげで面接ではほぼ100%、社員インタビューを読んだ感想が聞けるんだそうです。

ここにも、前章での仮説があてはまりそうです。

・地方の経営者はあまり情報発信していない
・記事の読者はあらかじめ対象に興味がある
・文章量は多くても読みにくい文章ではない

「地方の経営者」だけ差し替えれば同社にも同じことはいえそうですよね。


わたしが前職を辞めて一般のWebの世界に飛び込んだ10年前。デザイナーはおろかマーケターもディレクターも、デジタルの領域で禄を食む人たちは全員が口を揃えていいました。

「文章なんて誰も読まないから」
「これからはSEOライターが主役」
「漫画や動画の時代だよ」

わたしはその度に、それは読むに値する文章じゃないからじゃないか、とひとり反発心を抱いていました。SEOってGoogleに読ませるテクニックだろ、と唾棄していました。漫画や動画の時代はわかるけどテキスト不要論とは結びつかない、と否定していました。

でも同時に、それもそうかもな、とも思っていました。

とりわけ若い人の活字離れ、書店の相次ぐ閉店、出版不況など、文章を紡いで生計を立てる人たちを取り巻く環境は悪くなるばかり。そこにきて最近ではChatGPTに文章を書かせる取り組みが嬉々としてメディアに取り上げられる始末です。

だけどわたしはここにきて、あらためてWebでもテキストは読まれる、と確信しました。

音声メディア、AIなどこれからも新しい潮流はどんどん生まれることでしょう。でもそれとは歩みを別に、Webでのテキストは紙とは違った形で生き残るし、その価値は担保され続けるはずです。

現にこうしてnoteというメディアが活況ではないですか。

成長から成熟へ、というのは資本主義だけの話ではないと思います。あらゆる文化にもその変化は遅かれ早かれ訪れる。そしていつだって変化に対応できる物だけが生き残るのです。

だからわたしは文章力を磨く必要があり、こうしてnoteを書いているのです。

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