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《平治物語絵巻・三条殿焼討》と一緒にボストンへ渡った《四条河原遊楽図屏風》の複製が、東京国立博物館に展示されています。

これまでのnoteでも、たびたび記していますが、東京国立博物館(トーハク)には、日本の美術を代表する作品の複製……つまりはニセモノがよく展示されています。

6月下旬から8月27日は、キヤノンが複製した、ボストン美術館に所蔵されている《四条河原遊楽図屏風(Amusements at the Dry Riverbed, Shijô)》が展示されています。

この屏風は、明治の美術史で岡倉天心とともに欠くことのできない存在だったアーネスト・フェノロサが、日本人の誰かから購入したものです。1886年には、盟友のチャールズ・ゴダード・ウェルドへ売却し、ウェルドがボストン美術館に寄贈しました(なお、フェノロサも岡倉天心も、ボストン美術館で働いています)。《平治物語絵巻》の「三条殿焼討」と、同じ経路でボストンへ渡ったということです。

さて、屏風について。

当時の……と言っても、どの時代なのか不明ですが……おそらく江戸時代初期の、京都の繁華街・四条河原の様子が描かれています。

なお《四条河原遊楽図屏風》と呼ばれる作品は少なくなく、ボストン美術館の当作は、その一つなのですが、ほかに静嘉堂文庫や旧松木家、天桂院、ライプツィヒ民族学博物館などが所蔵しています。

それら《四条河原遊楽図屏風》は、水平な四条通によって画面が上下に分けられて、それぞれに見世物小屋を並べるという、共通の基本構図をとっています。また、鴨川が四条通とほぼ直角に交わっているのも特徴です。

この頃(江戸初期?)のお侍さんは、二本差しといっても、打刀+脇差ではないんですよね。これは明らかに脇差ではない、長い刀を二本差している。ずいぶんと重いんじゃないかと心配になるほど長いです。

その四条通に沿って、芝居小屋や見世物小屋が建ち並んでいます。この時代の後には、すぐに禁制となってしまう女歌舞伎や若衆歌舞伎も見られます。

下は、芝居小屋でしょうか。むしろこちらの方が、今の歌舞伎に近いようなことを演じていたのかもしれません。

見世物小屋では、虎やヤマアラシが展示されていたり、犬の曲芸なんていうのもありますね。また鴨川の近くでは、綱渡りをしている曲芸師……サーカスみたいなことをしている人もいます。

ヤマアラシ

下の見世物小屋は、この巨体の女性? を見に来ているんでしょうか。隣に座る小屋のスタッフが、女性を指さして、観客になにやら説明しているようです。

相撲も行われていますね。現代の、ものすごい巨漢の大男たちが、土俵の上で戦うという形式ではありません。見た感じだとモンゴル相撲みたいな感じですが、地方によって、ルールも異なるものだったんでしょうね。

あとは、四条通を行き交う人たちを一人ひとり見ていくのも楽しいです。この頃は、大手を振るって、こうした繁華街に来られない人も多かったんでしょうかね。なんだか、こっそり来てます……とか、そういう怪しい雰囲気が漂う人が少なくありません。

↓ この扇子を上に掲げて、ふぅ〜! ってやってるおじさんが気になりますw

岩佐又兵衛が描いたような女性たちもいますし……でも、この刀を一本だけ差している女性? 男性? は何者でしょうか。

下の写真は、見世物小屋の中の様子なのですが、壁面というんでしょうか、波兎が描かれているんですけど、これがとても精緻なタッチで描かれていて、驚きました。まぁこの波兎だけではなくて、人々の着物の柄とかも、ほんとうに細かく描きこまれているのには、驚嘆してしまいます。

売茶翁(ばいさおう)みたいなおじいさんが、お茶をたてていますよね。売茶翁とは、黄檗宗の坊さんで「61歳で、東山に通仙亭を開き、また自ら茶道具を担い、京の大通りに喫茶店のような簡素な席を設け、禅道と世俗の融解した話を客にしながら(81歳まで)煎茶を出し(Wikipediaより)」ていた方。伊藤若冲や、そのパトロンの相国寺の大典顯常さんと親交のあった人です。まぁでも若冲の売茶翁の像によれば、白髪のオールバックなので、ちょっと違うのかもしれません。

冒頭で少し触れたフェノロサさん。この絵をアメリカへ持っていった方です。フェノロサさんの評価は、色々とあると思います。明治維新後に起きた経済混乱の中で、叩き売りされていた日本の美術を買い漁って、アメリカへ持って行ってしまった人……もしくは、日本の芸術をアメリカに疎開させて守ってくれた人……。わたしはどちらかと言えば、後者の印象があります。

特に、この素晴らしい《四条河原遊楽図屏風》がボストン美術館に所蔵されているおかげで、こうやって精度の高い複製品が作れた。そしてトーハクで、もう触れるくらいに身近に、誰もが観られて、写真に撮ってnoteにアップできるから、まさに誰もが観られる。同じく冒頭に挙げた他所蔵の《四条河原遊楽図屏風》……ネットで調べても、いろんな人がその素晴らしさは説明していますが、どんな絵が描かれているのかを写真で観ることはできません。おそらく《四条河原遊楽図屏風》に限っていえば、このボストン美術館本(版)が、日本で最も一般的な《四条河原遊楽図屏風》ということになるでしょうね。フェノロサさん、《平治物語絵巻》の「三条殿焼討」に続いてのグッジョブ! ですよw もちろんキヤノンの高精細な複製技術もですけどね。

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