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池大雅と妻・池玉瀾の作品を見てきました@東京国立博物館
これまで何度か言及したことのある、NHKの正月時代劇『ライジング若冲 天才 かく覚醒せり』では、伊藤若冲を主軸として円山応挙や池大雅が出演していました……(なぜ与謝蕪村は外されたんですかね?)。わたしが江戸時代の京都画壇に興味を抱いた、きっかけになったドラマと言っても過言ではありません。
東京国立博物館(トーハク)は展示替えが頻繁に行なわれますが、いつ行っても、この3人のいずれかの作品が、少なくとも1点は見られます。6月30日までの今季の屏風・襖絵の部屋では、友人の与謝蕪村の《山野行楽図屏風》(重文)の隣に、池大雅の《竹林七賢図襖》が展示されていました……ちなみにもう1点は、日本の南画の祖と言われる彭城百川の《山水図屏風》(重文)です。
■ミニマルな線で詳細に描き込んだ《竹林七賢図襖》
《竹林七賢図襖》の画題は、そのタイトルのとおり、様々な人によって描かれた定番「竹林七賢」。解説パネルには「竹林七賢は、中国の普代に俗世間をさけて山中に隠適し竹林に集ったとされる7人の総称」と記されています。
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池大雅筆|江戸時代・18世紀|紙本墨画
植松嘉代子氏寄贈
魏や晋の時代にに生きた阮籍(げんせき)をはじめとする人たちで、常に竹林(ちくりん)の下に集まって酒を飲み交わして自由奔放な生活を送ったと言われています。魏晋の無責任男……または中国古代に現れたクレイジーキャッツといったところです。
トーハクにも同画題の作品が何点か収蔵されていて、何度か見たことがあるのが、狩野元信の作と言われている『竹林七賢図屏風』です。
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室町時代 天文 22 年 (1553) | 紙本・墨画淡彩
こうした堅苦しい画題なのですが、江戸時代には浮世絵師の鈴木春信によってパロディ作品《見立竹林七賢人》が作られています。「賢人も 志やれ乃 浮世や 君が春」……「昔の七賢人も浮世の春を楽しんでたんだぜ!」といったところでしょうか。江戸の庶民は、こうした絵を見て七賢人を知ったのか、もともと知っていて「あぁ七賢人をパロっちゃってるよぉ」ってクスッとしていたのでしょう。
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こうして書くと池大雅と鈴木春信は別の時代の人……かのような印象を受けかねませんが、実は2人の生年は1年しか違いません。池大雅は、1723年に京都で生まれ、鈴木春信は1724年に江戸で生まれました。
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それはさておき、池大雅さんの《竹林七賢図襖》に話を戻すと、その解説パネルには「リズミカルでのびのびとした筆線で、竹に囲まれる七賢と童子三人だけをシンプルに描いています。清らかな空気のただよう…」と記されています。
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細かく見ていくと「リズミカルでのびのびとした筆線」というのが、よく分かります。本当に上手い人の線っていうのは一切の迷いが感じられませんよね。ス…スゥ〜……と描かれていて、ミニマルな線しかないのに、竹や人物の表情が“詳細に”描かれています。鎌倉時代の白描画に通じるものも感じますね。どれだけ線を引かずに、どれだけ詳細に描けるかを大事にしていたのかもしれません。
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さてさて、こちの作品も、そろそろおなじみとなってきた、東海道の原の宿の素封家(お金持ち)、植松家に伝来したものなのだそうです。寄贈者が植松嘉代子氏となっているのは、そのためでしょう。植松家に関しては、以前noteしたことがあるので、ご興味があればご覧ください。
■池大雅のカクカクニョロ字
その沼津の植松家……植松嘉代子さんからは、池大雅の絵だけではなく、書も多く寄贈されています……が、今季展示されている池大雅の書は、久世民榮氏が寄贈してくれた《唐詩五言二句 B-3406》です。
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池大雅筆|江戸時代・18世紀|紙本書
久世民榮氏寄贈
かなり味というか癖の強い字体で、かっこいいのですが……正直、なんて書いてあるのか分かりませんが、こちらについては解説パネルに記されていました。「潮平両岸、風正一帆懸」……ChatGPTに意味を問い合わせると、下記のように応えてくれました。しばしば信用ならないChatGPTですが、こちらについては間違いないような気がします。
潮平両岸(ちょうへいりょうがん):潮が満ちて、両岸が水位が同じくなっている様子を表しています。つまり、川や海の両岸が潮の満ち引きで同じ高さになっていることを意味します。
風正一帆懸(ふうせいいっぱんかかる):風がちょうどよく吹いていて、一艘の船の帆が張られている様子を表しています。風向きが適していて、船が順調に進むことを意味します。
この詩句全体で、「潮が満ちて両岸が同じ高さになり、風が順調に吹いて船の帆がよく張られている」という情景を描写しています。穏やかで順調な航海の状況を表現していると言えます。
■池大雅の妻、池玉瀾さんの扇面
今季のトーハクでは、池大雅だけでなく妻の池玉瀾さんの作品も見られます。展示されているのは《蘭図扇面》。
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池玉瀾筆|江戸時代・18世紀|紙本淡彩
解説によれば「『扇面画類聚』として伝わった6面のうちの1面」なのだそうです。この『扇面画類聚』については詳細がネットで見つけられませんでした。ただ、6面のうち少なくとも2面はトーハクが所蔵しています。そのほか池大雅の友人だっただろう与謝蕪村も1面を描いているのは確かなようなので、その絵がどんなものなのか、またほかの3面はどこにあるのかも知りたいところです。
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解説では「のびのびとした緑の葉のあいだに紅い花と和歌がリズミカルに配置されている」のが、本作のポイントだとしつつ、扇面に記されている和歌については、書き下し文も記されていました。
飽かず見む
咲そふ草の
露ながら
色香もふかき
秋のまがきは
飽きることなく見続けたいです。
咲きそろった草に露がついている美しい姿を。
色も香りも深く漂う秋の垣根よ
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今季に展示されているわけではありませんが、同じくトーハクに所蔵されている池玉瀾さんの《蘭図扇面》です。そのほか全国に池玉瀾さんの絵が残っているようなのですが、個人蔵が多いため、あまり世には出てこないのかもしれません。個人的には、夫の池大雅さんに習ったという南画の雰囲気が色濃いものよりも、今回のような絵が好きです。
ということで今回はこのへんで……
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