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適材適所

こんにちは、HAKUです。

今回は初めて「内縫い」のペンケースに挑戦しました。表側を内にして縫い、最後にひっくり返すアレです。むむぅ、なかなか内縫いも奥が深そうだな。

実は当初は同じ「ペンケース」でも全く別の形のものを作る予定でしたが、ある理由があって急遽予定変更。今日はそのあたりの事を書いてみたいと思います。

皮革をご提供いただく

先々月から、東京台東区にあるレザーショップ「ウインズファクトリー」さんより皮革をご提供頂いています。「え、私なんかで良いのですか…」という驚きと恐縮しかありません…。

「サンプル帳の中からお好きなものを選んでください」とのことだったので、「ニューヨーク」という名前の皮革をお願いしました。ウインズファクトリーさんのラインナップの中でも人気が高い革だそうです。

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型押しも好きだけど、このナチュラルな感じもいいですね。
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カラーバリエーションも豊富。これは迷う…。

オイルの含有が多いらしく、とてもしなやかでしっとり感のある革です。といってもヌッタリした感じはありません。

天然のシボもあってすごくナチュラルな雰囲気ですよね。何というか、ボキャ貧で申し訳ないのですが「革らしい革だな」と思いました。革に詳しくない人がパッと見ても絶対に「コレ、合皮?」とは言わない感じ。

素敵な革をご提供いただき、本当にありがたいお話です。ありがたいなぁと思う一方で、YouTube動画の再生回数が壊滅的に激減しているのでちょっと申し訳ないなぁ…。せめて素材を大事に丁寧なものづくりをしなければ。

質感を変えるか、質感を活かすか?

「ニューヨーク」はサンプル帳で見た通り、すごく良い雰囲気の皮革でしたが、一つ問題が…。サンプル帳は原厚ですが、実際に頂いた革は薄めに漉いて頂いたのもあって私が想像していたよりもコシがなく柔らかい質感でした。

実は当初、駒合わせ縫いを駆使したペンケースを制作する予定でした。イメージとして近いのは過去に作ったこちらの「喰い切りケース」のような感じ。

そのつもりで革を頂く前から型紙のデザインを進めていたのですが、実際の皮革を手に取ってみるとちょっと考えが変わってきました。

駒合わせ縫いは革同士が直角に接合されます。それもあって革自体に厚みとある程度のハリ・コシがあったほうが作りやすいですし完成後も形がキレイにキープされます。

おそらく芯材を駆使したり、ハリの強い革を裏打ちすれば柔らかめの「ニューヨーク」でも作れそうですけど、「それでいいのか?」と思い始めてしまったのです。

確かに芯材を使ったり、あの手この手で「革の質感を用途に合わせる」ことはできると思います。ですが、そうすると何だか「この革を使う意味」みたいなものが薄れてしまう気がしてしまったんです。

もっと言ってしまえば「革素材そのものが持つ本来の風合いや質感といった魅力をを損なう仕立てになってしまうんではないかな」と。

一度そう思い始めてしまったら、止まらない…。アレコレ考えてはみたものの、最終的には「この革を使って、このアイテムは作るべきではないっ!」というところまで思考が到達してしまいました。

なので、進めていたそれまでのデザインは、ひとまずポイ。改めて、「この革を使うなら、どういうものが作りたいか?」を自問した結果、内縫いアイテムに行き着いた、というワケです。

実際に作ってみて「この判断は正しかったな」と実感しています。

内縫い自体初めてなので仕立てのクオリティは微妙なところですが、ふっくらとした仕上がりは「ニューヨーク」が持つ優しい雰囲気、しっとりとした手触りととてもマッチしているんじゃないかな、と。

もともとしなやかで天然のシボも入っているので、最後にひっくり返しても変なシワができることなく初挑戦でもまとまってくれました。うん、やっぱりこっちが正解だった気がする。

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内縫い初挑戦の試作品。ふんわりいい感じ。

過ぎたるは…

今回の一連の迷走(?)は私自身、すごく勉強になったなぁと感じています。

以前のnoteで、芯材を使うようになったことが私のブレイクスルーポイントの一つだというお話をさせていただきました。その考えは今も変わりはありません。

型崩れを防いできれいな形をキープする。ホックボタンの取付部などの補強をする。ファスナー貼りのガイドにする。アタリを防ぐ。伸び止め。…とても便利ですし、完成度も作れるものの幅も広がったように思います。

ですが、やりすぎると、そもそも素材が持っている魅力を損なってしまいかねないぞ、というのが今回の学び。まさに、過ぎたるは及ばざるが如し、ですね。やりすぎはアカン。

もちろん、素材選びも「ものづくり」の一環。セオリーにこだわらず自由な発想で選定して良いと思います。柔らかい革で駒合わせ縫いをしても、ブライドルレザーで内縫いをしても、何も「間違い」ではありません。

また時には「どうしても作りたいもの」と「どうしても使いたい素材」の整合性を取るために色々と手を加える必要に迫られる場面もあるかと思います。

ですが、素材そのものが持っている特性・特徴を素直に活かす方向で考えたほうが総合的な完成度は高くなるような気がしました。「素材を生かしたものづくり」ってよく聞く言葉ですが、「こういう事かぁ」と少し意味が分かった気がします。

ちょっと余談ですが、昔読んだ漫画『江戸前鮨職人 きららの仕事』を思い出しました。以前通っていた歯医者さんになぜか全巻揃っていたんです。読破する前に治療が終わったので全巻読み切れてはいないのですが、面白かったなぁ。

コミックスの巻数が「1巻」ではなく「1貫」ってなっているのがニクイですよね。

江戸前寿司とは、塩や酢でしめたり、タレを塗ったり、漬けたり…。色々な工夫が凝らされたお寿司。もともとは冷蔵・冷凍などの保存技術や現在のような高速流通網がなかった頃に、魚介類を日持ちさせるための加工をしたのが起源だとか。

鮮度という課題を克服し、尚且別のものに作り変えるのではなく素材がもつ旨味や食感を最大限に引き出すのが江戸前寿司職人の「仕事」だそうです。ね、何となく今回の学びと通じるものがありますよね。

どういう仕事を施したら、素材の良さを引き出せるか?

これまであまり考えてこなかった大事なことに気付かされたような気がします。

便利な副資材も多いですが、あくまでも「副」資材。便利さに頼り切るのではなく、使う革素材ならではの良さを見極めて活かすものづくりを心がけたいな、と思いました。

そのためにはやはり色々な質感の素材に触れて、素材に関する知見も積まないとなぁ。


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