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帰り道

何かの事故で電車が止まった。家の一駅手前だったので、改札を出て歩くことにした。暦の上では夏だというのに、湿気を孕んだ風が体にまとわりついて暑い。
大体の地図を頭の中で思い描きひたすらに歩き続ける。
汗をぬぐいながら歩いていくが、顔を上気させ歩いていく。すると、ある事に気が付いた。人っ子一人すれ違わない。暑いとはいえ、夏休みの期間であると子供が歩いている所を幾度となく見ていた。しかし、今の時間は大人も子供もおらず全く人とすれ違わなかった。
「何かがおかしい」
そう呟いて空を仰ぐと先ほどまで真っ青に晴れていた空が血のように真っ赤に染まっていた。ますますおかしいと考えながら立ち止まると、先ほどと同じ地蔵がぽつんと佇み、自動販売機が低いモーター音を立てていた。
もう一度確認のために同じぐらい歩くと再び同じ景色が見えてきた。疲れから思わず地蔵の前にしゃがみこんで手を合わせる。
「早く帰りたいです」
もう一度決意を改めて今度は逆側に歩き始めようとした。しかし、はたとあることに気づき、地面に唾を吐いて、それをぐりぐりと足の裏で踏みつける。
するとにわかに強い風が吹いてきたために目をつぶると、そこはもう家の近くであった。子供が楽しそうに自分を走りぬいていき、日傘をさした女性はこちらに向かって歩いている。
「こんな時代に狐に化かされるなんてな」
そうつぶやくと、家の鍵を取り出して家の中へ入っていった。その様子を見た子供はにこりと笑って姿を消した。

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