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冷蔵庫

 私の家はいわゆる"でる"家に住んでいたことがある。
 何人か前の住人が自殺をして以来入居者がすぐに出て行ってしまうために、家賃が格安で貸しにだされているのを発見した。
 なぜ私はそこに住めていたのかと言うと、怪現象は信じないからだ。とにかく霊とは無縁の生活をしており、こちらとしては家賃が安くていい部屋が借りられてラッキーとしか思っていない。
 ラップ音はただ木造建築特有の家鳴りであり、窓やドアを叩く音は部屋を間違えた住人や猫のせいだと思っている。時々現れる顔のようなシミも目の錯覚である。
そんな日々のおかげか健やかに生活を送ることができていた。


 ある夜ふと真夜中に目が覚め、いやに喉の渇きを覚えた。
不思議なこともあるもんだと思いながら真っ暗の部屋の中を手探りで冷蔵庫まで向かう。


 冷蔵庫の扉を開けてた瞬間だった。


 そこには何もなかった。
 冷蔵庫の中身の話ではなく、仕切り板や電球の光はなく、今よりもさらに真っ黒の漆黒と言えばいいのかそんな空間が広がっていた。
しばらくその虚空を見つめていると、底からは何かが唸るような悲鳴を上げているような声が聞こえた。
 すぐに叩きつけるように扉を閉めた。

 暑いのに布団を頭からかぶって朝をまった。
 眠れない長い夜を過ごし、朝日が昇るのと同時に再び冷蔵庫の扉を開くと元に戻った。調味料ぐらいしか冷えていない冷蔵庫だった。


  そのあとすぐに不動産屋に駆け込んで引越しをした。
 今考えれば、冷蔵庫は鬼門の方角にあり霊道が通っていたのではないだろうか。それであの世への扉になったような気がする。

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