夜道

ある日の夜、私は家で眠い目をこすりながら仕事をしていると、玄関のチャイムが何度も押され、玄関のドアが激しく叩かれた。
普段は何も気にしない私だが、少し怖くもあり近所迷惑にもなるので慌てて中から確認すした。
みると、彼女が後ろを確認するように何度も何度も振り返ってドアが開くのを待っている。
私は舌打ちをしてドアを開けた。
「駅に着くとき連絡しろって言っただろ。それに今何時だと思ってんだ…」
「そんなことより、早く玄関閉めて!窓も閉まってるよね?!!」
彼女はとにかく恐ろしいものを見たと言った様子で私に話しかけた。
「今日はゲリラ豪雨が降ったからもう窓は閉めて冷房がかかってるけど…なんで?」
「さっき駅で怖いものを見たの」
そう聞くと俄然好奇心が出てきてしまい、愛用の黒い手帳を取り出しすぐにメモを始めた。

「ウチが電車に乗ってるとね、肩の上に何か黒いものが乗っかったおじさんがいたのよ。
××駅に着くと這いつくばるように移動してどこかへ移動するから、思わず気になって後をつけていくと、見慣れた道なの。
あんたの部屋の道だと思って怖くなって走って追い越してここに着たってわけ」
彼女はそういうと俯いて落ち着くために何度も深呼吸をした。
「じゃあ、お前は走ってその黒い塊を追い越したの?体とか大丈夫?怪我してない?」
彼女は無言で頷く。私は彼女の手を取ると、心配そうに顔を覗き込む。
「追い越すときそれの正体を見た?」
私がその問いかけをすると、彼女は大きくそれに頷いた。
「どんなのだったか話せるか…?」
彼女はその言葉を聞くとピタリと動きを止めて黙り込んで閉まった。

「そんなに怖かったのか…無理しなくていい。お茶のお代わりもってくるから」
私がそう言って手を離そうとするが、充はガッチリと手を掴んだまま下を向いて話さない。顔まではうかがえないが小刻みに震えていふようだ。
「その隣を通ったときはとても寒くてここだけ冬のヨウナ気がしました。真っ黒なそれは思った以上に早くて走っても走っテモ中々追い抜かせませんでしタ。隣に並んだ時に見たのは」
私をを掴んでいた手が一気に冷たくなり、彼女は顔を上げた。しかし、そこにあるはずの目鼻口はなく黒い穴だけが開いていた。
「真っクろだったンデス」
私はは力一杯彼女だったものの手を振り払って部屋の隅へと後ずさりした。彼女だったものはぐらりとバランスを崩し床に倒れてドロドロと形を失った。
薄れゆく意識の中で机の上のお守りが光っていたような気がした。

「ねえ、大丈夫?」
私が目を冷ますと、布団の上に寝かされており彼女は心配そうに覗き込んでいた。
「よかった。目を覚ました。死んだかと思ったのよ」
彼女は安堵のため息を漏らし、頭に乗せていた保冷剤を退けた。
「あれ、なんで、さっき来て、真っ黒で」
「あんたと全然連絡付かなかったから合鍵使って入ったわよ。そしたら部屋の隅で熱出して倒れてるし、めっちゃ驚いた」
私は痛む頭で考えた。どうやら先ほどの出来事は熱が見せた幻覚なのだろう。
どんどんと先ほどの出来事が夢であったような感覚になっていく。
確かに彼女は合鍵をもっており、玄関のチャイムを鳴らしてから入るはずがない。
「夏バテにやられたらしいな。本当に助かったよありがとう」
色々と話したことはあったが、喉も痛むために小声で礼を言って再び布団に寝転んだ。
私が机の上のお守りを見ると真っ黒になっていた。今度お礼も兼ねて神社に行こうと思う。

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