見出し画像

土蔵

 これは知り合いのお坊さんから聞いた話です。


 彼のお寺は大きいところで何人も修行しているがいるお坊さんがいるそうです。また、無宗教の納骨堂や墓地などを備えておりたくさんの檀家がいるようです。


 そんなお寺で、時折困ることが発生するのだと困り顔で言っていました。それはお骨を境内に置いていくことです。
 夕暮れに境内を見回りに行くと、夕暮れに照らされたポツンと骨壺に入ったお骨が置いてあるそうです。
 話では生前に迷惑かけられた腹いせに電車の中に置いて行くなどは聞いたことがありますが、本当にそんなことがあるのだと本当に驚きました。
そのような骨はそのままゴミに捨てるわけにもいかず、無縁仏として供養をするのだと聞きました。
 普段そのようなことに縁のない私にはすでに驚きの体験ですが、先日の出来事には本当に肝が冷えたのだと彼は言いました。

 彼が修行しているお寺で人寄せがあったそうです。その支度のために、客人用の食器などが入っている土蔵を開けたそうです。
 その中に異質な白くつるっとした壺がありました。職業柄というのか見慣れたそれを開けるとやはり遺骨が入っていました。
 
 しかし、隣にいた同僚の呟きで少し騒ぎになりました。
「ここって3ヶ月は開けてませんよね…」
貴重品こそありませんが、用心のために普段は鍵がかかっています。
境内の中でも奥まったところにあるため一般の人もそこを訪れるのは稀です。いったい誰がどのようにしてそこに置いたのか全く見当がつかなかったそうです。
 土蔵に抜け道はなく、あったとしてもわざわざこんなところまで持ってくるでしょうか。
もしこのうちの誰かが3ヶ月前にそれを受け取ってもそこに置く人はいません。
 皆の騒ぎが大きくなったところで、住職がやってきました。未熟な私たちを一喝すると、作務着の袖でかるく壺を拭って本堂へと持って行きました。
その夜は簡単な葬儀が行われ、その骨は無縁仏として葬られたというのです。
「骨を置いて行く気持ちもわかるけど、せめて見つかるところに置いて欲しいね」
彼はそう苦笑していました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?