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散文「メンヘラ女からの手紙」

性被害を受けて
被害者の看板を上げたの
わたしはきっと酷いことをされた
PTSDにもなった
だからきっとこんなにツライんだって

でもときに
それは言い訳なのかなあ?
そう考えるときがある
本当になかなか乗り越えられないの?
それとも乗り越えようとしないだけ?
被害者の立場にしがみついているだけなのかな?って

どうにもならない!って
本当にどうにもならないのかな?って
どうにもしたくないだけじゃないのかな?って
でも誰もその答えを持たない

それでも
やさしいひとは言うの
「そんなことはない」と言う
「あなたはとても頑張っている」と言う
わたしは同じ立場にいるひとに
問答無用でそう言える
そのひとが否定しても言い続けるの
だってそうでしかないんだから

でもね
わたしはやさしくなんかない
それにわたし程度の生き方で
「頑張れている」とは思えない
足りないの、全然足りない
だってみんなは「すごく頑張れている」のだから
もし、わたしもそうであったなら
彼に「愛してる」って堂々と言えた気がする

そしてきっと
わたしが問答無用で称えるみんなも
あなただってきっとそう
わたしと同じような思いを
同じような葛藤の中にいるのだろう

自分のことのように
あなたを思うよ
それでもあなたが思うように
わたしを思うことができない
みんなきっとそうなんだ

問答無用で「たいせつ」を押し付け合って
自分に思うことのない「だいすき」すら
あなたには押し付ける
だってあなたも
わたしに押し付けてくれるから
遠慮なく押し付け合うんだ

そうやって
廻りまわった「たいせつ」と「だいすき」が
わたしのものか、あなたのものか
誰のものかもわからない
そうして受け取った「それ」が
もしも「わたし」の放ったものかもなんて
気づかないでいたいなあ
だって気づいた途端に受け取れない
そんなにも矛盾したわたしたち

他人が、関係ないヒトが
放った言葉に傷ついて
「甘えてるだけだ」って
「被害者でいたいだけだ」って
「悲劇のヒロイン気取って」って
「楽でいいよな」って
そうなのかなあ?って
やっぱりそうなんだろうなあ……って

弱い人間
劣っている
言い訳を探して生きている
頑張らない言い訳になり得る悲劇を
お前は探しているんだろって

答えは誰も持ってない
なのに自分ではないヒトたちが
わたしに答えを押し付ける
弱い、劣ってる、わがまま、自業自得、馬鹿、判断力がない、無知、無能、マトモじゃない…
認めたら認めたで
弱者ぶってと非難される

どうか本気で「し」と「ね」をぶつけて
そうなる姿を見つめてほしい
責任持って「し」「ね」と言って
そうなるわたしをよーく見ていて
眼をそらさないで最期まで
わたしはあんたの眼を見続けて息絶えるよ
ちゃんと見ててね

わたしは華麗に凄惨に
あんたの前で陰惨に
痛みに酷く苦しみ惨く醜い屍になる
あなたの放った「し」と「ね」によって
あなたのことも巻き込んで
「し」をやってみせるから

ねえどうか
その先を生きたあなたは
あの馬鹿な女のせいで
「トラウマだ」とか
「ツライ」とか
絶対に言っちゃダメだよ
「フラッシュバック」も起こしちゃダメ
「悪夢」に魘されるのもダメ
絶対にそうならないで
普通のままにいてくれないと本当に困るから
「悲劇に酔って」いないでね
「被害者」だとか
「弱者」ぶったりしないでね

そうできたなら
やっと証明されるもの
わたしはただ
「甘えていただけだったのね」
やっと答えを知れたから
本当に安心できる


被害者の看板

本当にわからないんだ。
わたしは被害者という立場に甘えているのだろうか?
頑張って、いるつもりなだけで。
頑張れて、いないのだろうか。

わたしには、今年のはじめに別れた恋人がいた。
わたしが別れを切り出した。
自信がなくなったから。

彼と過ごした帰りの電車内で、痴漢に遭った。
下半身を押し付けて、太ももを触られた。
わたしはその瞬間まで、自信があった。
痴漢に遭ったら、やめてください!このヒト痴漢です!
そう声を上げられるって、自信があった。
きっともうそれくらいは出来るようになった。
そう絶対の自信があった。

それなのに、
からだを強張らせて、
黙り込んでいるだけだった。

ほんの5駅かそこらを、
わたしは途中で降りることすらできなくて、
乗り換えの駅までをそのままで、
固まっているだけだった。

自信が、すっかり無くなっていた。

彼に会うのが、悲しくなった。
「好き」なひとに「好き」と言われる度に、
「愛されている」と感じる度に、
そんなにも価値のないわたしを考えてしまう。

希望でいっぱいだった。
幸せがいっぱいに溢れんばかりにあった。

なのに卑屈にも、わたしは、
そんなものは似合わないとしか思えなくなっていく。
普通に結婚して歩む人生をいく自信が、さっぱり、すっかり、無くなってしまった。

言い訳だろうか。
言い訳でしかないのか。

そんなことくらいで、わたしはいまも大好きな彼に別れたいと告げた。
無責任に彼の幸せを心から願うし祈る。

何度も聞かれた。
どうして別れたいのか?
他に好きな人ができたのか?
違う。わたしが好きなのは彼だけだった。
ならどうしてなのか?
説明もできなかった。

たぶんものすごく不安定になっていたんだと思う。
体調不良も重なった。
機能性月経困難症になってから、飲み始めたピルは欠かしていないのに、酷い生理痛と吐き気と頭痛とだるさに襲われて、消退出血のはずなのに、量がものすごく多くて、8日経っても出血は続いて。
まさかと思ったけれど、妊娠ではなくて、流産とかでもなくて。

苦しい。
彼と別れようと考えて泣いた。泣き暮れた。
わたしは彼にきっと迷惑をかけるだろう。
わたしを支えようとしてきた母が、昔、わたしに投げかけた「あんたは被害者じゃない。いつまでそうしているつもりなんだ」と言う言葉。
いつまで?本当にいつまで?いつまでこうなんだろう?

わたしは、どうして、こんなにも、大好きな人に、
大好きと胸を張っていられなかった?

すべて言い訳なら、誰かに証明してほしい。
わたしの人生を、わたしがこれまでにした経験をすべてを、同じように通っても違う方向に進めることを、誰かに証明してほしい。
わたしがダメなんだって理解できるのに。
諦められもするのに。

そんな不可能を言ってしまうところが、きっと、本当に、
メンヘラな女なんだろうと思う。

恋をしてはいけないな。
そう思って、そう決めた。


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