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酵母 -発酵の基本知識-⑭

酵母は乳酸菌と同様、わたしたちの食生活に大変密接でなじみの深い菌のひとつです。

伝統的な日本の発酵食品から、海外からやってきた発酵食品まで、さまざまなジャンルにおいて乳酸菌同様多岐にわたります。


酵母の種類と特徴

酵母は、主に糖類をエサにアルコールと炭酸ガスを生成します。

酵母の作用する発酵を酵母発酵またはアルコール発酵と呼び、炭酸ガスを利用したパン、アルコールを含む飲料、お酒類をつくりだします。

発酵食品の製造に使われている酵母は主に「サッカロミセス属」といい、糖類をエサに発酵する酵母で、聞きなじみのあるところでは、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、醤油酵母、味噌酵母、パン酵母などがあり、それぞれの発酵食品の製造に適した酵母が使い分けられています。

サッカロミセス属の酵母でも最も知られ使われている「サッカロミセス・セレビシエ」は、清酒・ワイン・パンなどに使われるアルコール発酵の行われる酵母ですが、「サッカロミセス・ルーキシ」は耐塩性の酵母で耐アルコール性がなく、味噌や醤油の製造に用いられます。

味噌や醤油が発酵過程で酒にならないのは、このサッカロミセス・ルーキシの特性によるものです。

ただし、同じサッカロミセス・セレビシエでもそれぞれに特徴があります。

アルコール耐性の高いもの、増殖が早いものなど、利用目的に合わせ、それぞれの酵母がもつ特徴を生かし、より目的に合った酵母を使用しています。

酵母は自然界の空気中、土壌から植物や果実の皮などに存在し、野生酵母と呼ばれパン作りなどの天然酵母はこれらの野生酵母を培養し、パン生地を発酵、膨らませて作られます。

伝統的な製法で、味噌や醤油、酒造りが行われる蔵には、「蔵つき酵母」といわれる酵母が柱や天井、床、木桶の中に長い年月をかけて住み着き、仕込みが終わり発酵の過程で桶の中に入り込み、人工的に酵母を添加しなくてもこの蔵つき酵母により発酵は行われていきます。

ただし、現在の清酒製造においては、酒質が安定しにくいという理由から、この蔵つき酵母などから選抜された酵母を純粋培養した清酒酵母が使われることがあります。


酵母の火入れ処理

いくつかの酵母の適温は20℃~38℃で熱に弱いのが特徴です。

40℃を超えると活動が停止し、60℃前後の調理温度においては比較的低温でも十数分で死滅してしまうのが多くみられます。

そこで、発酵食品を製造後に流通するにあたって製品を安定させるために「火入れ作業」という工程が行われます。

これは、輸送過程や保管時に品質が変性することを防ぐために行われ、「低温殺菌処理」や「発酵止め」ともいわれます。

ビールやワインなどは精密なフィルターにより「濾過」を行うことで酵母を取り除く事ができます。

この行程を行うことで、製品発酵を止め、品質を安定させ賞味期限を長く保つことができるのです。

その反面、一部には酵母だけでなく発酵食品中に含まれる酵素なども失活してしまうこともあり、発酵食品の良さが半減してしまうデメリットもあります。

なるべくならば、蔵元から冷蔵のまま直接購入し火入れ処理をしていないものを購入するか、調理方法に工夫をすることが、栄養面でも発酵食品をあますことなく楽しむ秘訣といえると思います。

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