その他微生物以外(自己消化など)による発酵 -発酵の基本知識-㉓
発酵食品には、微生物以外による発酵というものが存在します。
それは「自己消化」と呼ばれ、魚などが自己の保有する酵素により、死後に自体の組織を分解することを指し、自己融解とも呼ばれます。
自己消化で主に働く酵素は各種あるものの、主にプロテアーゼ酵素によるタンパク質の分解によるものを多く指しています。
自己消化は細菌類による腐敗も同時に進行しやすいため、低温管理をさせたり、塩分などで腐敗を防いだりすることが多く見られます。
自己消化による発酵食品
発酵食品においての自己消化は、一般的に魚などが死亡後にその組織や細胞が自身の酵素により、糖質、タンパク質、脂質などに分解されて柔らかくなるさまを指しています。
自己消化による発酵食品の代表的なものは、塩辛、魚醤などですが、イカの塩辛などは、取れた新鮮なイカを保存目的で塩蔵している間に自己消化酵素の働きで発酵し、旨味や風味が生まれたものであり、魚醤なども魚などを塩蔵した際に生まれる上澄み液が元となっています。
塩辛などは高濃度の塩分を加えることで腐敗を防ぐ事が可能になりますが、その濃度はおよそ最低でも10%以上であり、それ以下の濃度になると腐敗しやすく保存することはできません。
食塩などを加えることによって腐敗菌を寄せ付けず、腐敗を防ぎながらその間に自己消化酵素の作用によって、アミノ酸による旨味成分を生みだします。
自己消化による発酵食品の一例
魚醤(イカ、いわし、ハタハタ、いかなご、鮎、鰤、鮭など)、イカの塩辛、酒盗(カツオの内臓の塩辛)、ウニの塩辛、うるか(アユの内臓の塩辛)、このわた(ナマコの内臓の塩辛)、めふん(サケの内臓の塩辛)、アンチョビなど多種類のものがあり、郷土色が強く、その土地でとれた魚介を新鮮なうちに加工されたものが多く見られます。
イカの塩辛 原材料:スルメイカ
製法:細切りした胴や脚肉、肝臓に食塩を加え、2~3週間熟成発酵させます。魚醤 原材料:イカ、いわし、ハタハタ、いかなご など
製法:イカや魚の原材料に25~30%の食塩を加え、1年以上熟成発酵させます。
塩分を控えた商品への需要
魚醤は大豆の醤油に比べ、塩分濃度がおよそ7~10%程度高くなっています。
魚には大豆に比べ、常在の微生物が多く存在し、熟成、発酵の過程で腐敗の可能性が高いために大豆の醤油よりも塩分を多く必要とし、このことで、腐敗を防ぐことができます。
近年では健康志向が高まり、塩分を下げた魚醤や塩辛の需要が高まり、そのための新しい技術の開発が進んでいます。その製法は、圧力を加え腐敗を避けるための技術で、グルタミン酸やアスパラギン酸などのアミノ酸量を増加させ、しかも短時間で加工できるため、この加工技術が注目を浴びています。
食肉に応用された自己消化技術
自己消化の作用は食肉の作用でも応用され、「熟成」と呼んでいます。
食肉を熟成させることにより、核酸系の物質(うまみ)やアミノ酸が増加し、筋肉も柔らかくなるために美味しく感じる事ができます。
ただし、食肉の熟成管理においては専門の知識が必要であり、家庭内においての食肉の熟成は腐敗菌の管理を十分に行えないために、危険といえます。
従って食肉の熟成に関しては専門の飲食店で楽しむ事が安全であり、より美味しい肉が味わえます。自己判断で行うのは避けましょう。
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