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ユーモラスな護符

海外に行くたび、現地の人からお守りをもらう。
香港でも「あなたたちの無事を祈ります」と言われて、お守りをいただいた。

言葉のやりとりがなくても、お守りをいただくことで、純粋に私たちの身を案じてくれていることが伝わった。

きっと、普通に海外旅行に行くだけだったら、現地のかたからお守りをいただくという経験はできなかっただろう。

お守りをくれる彼らの心意気に感銘を受けるとともに、アーティストになって本当によかったなと思った。

天壇大仏

今までお守りに関心をもったことがなかったが、この経験から、私も少しずつお守りに興味をもちはじめた。

ただ、お守りと一言にいっても、たくさんの種類と効能がある。

師匠の作品で「招き猫 忍にゃ隊」という招き猫をモチーフにしたものがあるが、招きねこには、手を上げているのが右手と左手で違いがあるらしい。

そして、師匠の「招き猫 忍にゃ隊」は種類によって、色が異なり、効能も違う。健康を祈る招き猫もいれば、商売繁盛、恋愛成就といった効果をもたらすキャラクターもいる。
このように、招き猫ひとつとっても、たくさんの種類がある。

招き猫

どの効能もすばらしいが、私が今もっとも関心があるのは、「疫病退散」のお守りだ。
というのも、日本にいても、海外にいても、コロナパンデミックの影響を痛感することが多いからだ。

日本におけるコロナに関するニュースは少なくなっているが、コロナパンデミックの影響で確実に世界が変わってしまっているという実感がある。

今年2月末、私は師匠たちとバリ島へいった。観光業が盛んなバリ島では、観光客が一気に減って飲食店も宿泊施設もガラガラになってしまったという。
特に、バリ島は日本人観光客がたくさんきていた場所であったが、コロナパンデミックを機に、日本人観光客はめっきり減ったという。2月にバリ島にいったときは、ローカルのひとたちやジャワ島やオーストラリアといった近くの島や国からの観光客はいたが、日本人は私たちだけしかいなかった。

「コロナパンデミックが、全てを変えてしまった。」
そう師匠のバリ島の友人はいう。

バリの自然は綺麗だった

そして、香港でもイベントが開催できなかったり、海外から人がこなくなったりと、コロナパンデミック中は、経済活動をいやでもストップしなければいけない場面があったという。

香港には天高くそびえるマンションが立ち並んでいたが、半分以上が空き家になっている様子が印象的だった。小さい部屋でも家賃は最低でも日本円で40万以上はしてしまうため、香港の若者も一人暮らしができず実家暮らしのひとが多増えているらしい。きっと、香港でもコロナパンデミックの影響は大きかっただろう。

日本にいても、コロナパンデミックの影響で政治、経済、文化などあらゆることがハイスピードで変化していっているように感じるが、これは日本だけでおこっていることではないということが、海外に行って分かった。

そして、疫病の蔓延は、単に健康を脅かすだけでなく、あらゆる方面において多大な影響を与えるということも理解した。
でも、悲しいことに、コロナパンデミックがもたらした世界の変化は誰にも止めることができない。

国内外とわず切ない状況に直面するなか、お守りをいただくという経験は、自分にとって救いになった。

この経験を次の作品制作に役立てたいなと思い、香港に帰ってから、早速、図書館で「疫病退散」の護符についてしらべてみた。
すると、日本には、疫病から身を守ってくれると信じられている妖怪のような神獣のようなものを描いた護符がたくさんあることを知った。

コロナパンデミックのときは、「アマビエ」という妖怪がSNS等のメディアで取り上げられていた。

アマビエ

「アマビエ」とは、半分人間で半分魚のような姿をしていて、海からひかりかがやく姿で現れ、農作物の豊凶や疫病の蔓延といった未来の予言をすると信じられている。
コロナパンデミックの最中は、SNSで「アマビエ」の絵が拡散されたが、「アマビエ」以外にも疫病から人々をまもってくるという妖怪はたくさんいるらしい。

例えば、「角大師」といって、痩せ細った鬼のような姿を映した護符がある。

角大師

これは、10世紀に実在した仏教僧である良源がモデルになっているらしい。「角大師」は痩せ細った鬼のような姿をしている。これは、良源が疫病神を退治した後、弟子をあつめて瞑想したときの姿を映したものらしい。「角大師」の護符を戸口にはりつけると、疫病にならないと信じられてきた。

面白いことに、「角大師」には他にもバリエーションがあり、「降魔大師」という太った鬼のような姿もある。これは「牛頭天王」にも似ている。

「午頭天王」は本来疫病をもたらすとされているが、丁寧に祭れば、疫病をはらってくれると考えられている。

降魔大師
牛頭天王

「牛頭天王」のルーツはよく分かっていないらしいが、頭に牛の頭がのっている姿なので、牛と関係があるのかもしれない

他にも「件(くだん)」といって、顔は人で体は牛の姿をしたものがいる。「件」は作物の豊凶や疫病の蔓延や戦争の勃発といった重大な未来の予言をすると考えられている。

香港でたまたま牛と出会ったこともあり、牛に似た神獣をみると、愛着がわいてしまう。

なぜ牛に似た神獣が多いのかはわからないが、牛は人間にとって身近な動物である分、多くのインスピレーションを与えてくれるのかもしれない。

香港の牛。可愛い。

他にも、たくさん疫病を退散する神獣や護符はあるが、どれもコミカルで愛嬌があったことが面白かった。

今と違って医療が発展していなかった時代は、疫病は脅威でしかなかっただろう。コロナパンデミックの比ではないくらいの惨事が引き起こされたにちがいない。

しかし、そんな大変な時代にこそ、先人たちはユーモラスな表現の護符で危機を乗り越えようとしたのかもしれない。

笑えない状況だからこそ、ユーモアを大切にしようとする先人の知恵に感銘をうけた。

私は海外で切ない現実をみた直後、いろんなことを考えすぎていたが、先人たちの知恵を見習って、大変なときだからこそ、ユーモアを大切に作品を作っていこうと思った。

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