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ローカルメディアのつくりかた:人と地域をつなぐ編集・デザイン・流通:本の紹介(ネタバレ少)

タイトルだけを捉えると、いわゆるハウツー本かな、と思うだろう。ぼくもそう思った。しかし、少し読んでみると、その手の本とは違うことに気づく。そして、読み物としての面白さがあり、「へー」とか「ふふふ」みたいなリアクションが出てきてしまう。

情緒的な語りもあれば、案外鋭い考察もある。アカデミックなタイトルと、レトロ感のある表紙から、この内容は「言われてみれば、たしかに」といった程度の整合性はあるものの、「読まなきゃわからない」のである。

2016年初版にしてはレトロな感じの表紙

本書は、国内の様々な種類の「ローカルメディア」を扱っており、フリーペーパーや地域情報誌、今では成功例としてすっかり有名な「食べる通信」といった、よりビジネスライクな展開へ発展したものなども紹介されている。北は青森から南は福岡と、地域も様々だ。

大体は、地域の紹介や、ローカルメディアのザックリとした紹介から始まり、見出しと共に、創刊者のエピソードトークやインタビュー内容等がまとめられている。このように紹介すると「なんだ、ハウツーじゃん」と思われるかもしれないのだが、コラム的で読みやすいのだ。その読みやすさの原泉は、著者であり編集者の影山氏の実力もさることながら「ローカルメディアを創っている人の面白さ」が際立っているのだ、という事に気づいた。

少し考えれば当然なのだが、まず、このWEB/SNS全盛の時代で、スマホ1台(創刊時期が少々前であっても、PCとデジカメさえあれば)全世界への発信も夢ではない時代にわざわざ「ローカルメディア」を創り、地元のトピックを中心に扱い続け、地元や、地元に関係する人へ届ける、みたいな人には、強いこだわりと「地元でなければならない理由」があるのだ。当然、他の新しいメディアとは一線を画す事になるし、既存の一般的な内容を扱う情報誌と差別化する過程で、意図せずとも独自性が高い内容となっていくのだろう。もちろん、最初から狙う方もいるのだろうが、生き残る(読者が居て刊行し続けられる)ことができるローカルメディアには、「地元や、地元を紹介することで支持を受けている強さ」があるのである。

地方出身で、仕事でよくローカルな案件に関与するぼくは、地域ってそれぞれ面白いと感じている。気候や風土、独自の文化と営みがあり、触れるだけで刺激的だ。しかし、新たに転入した者からすれば、ディープすぎてとっつきにくいこともあるし、観光客には気づかれもしない特徴だってある。みなさんも、大なり小なり「地元トークを聞いていると、通称がわからないし、笑いのツボさえわからない」みたいなことは経験があるだろう。ぼくは、知ったかぶってよく相槌を打っている。しかし、地域内で情報が共有されることで、より、地域ならではの取組みや文化や醸成されるし、地域内での盛り上がりは結果として、よそ者の目に触れる事となっていく。この「メディア」の本質的な「つたえる」という事を、ローカル起点で、ローカルに行ない続けるという、大変タフで面白い事をやっている人が面白いのだ。逆に、それくらいの情熱やこだわり、または縛りが無ければ続けられない事なのだ、と、ちょっとわかった気になれる。
無論、本書を読んだだけでは、そこまの境地を全て理解することはできないが、読む前よりは、まぁ、ちょっとはわかったかな、と思う。

著者である影山裕樹氏は現在、大学で教鞭を執りながら、地域でのつながりに関する活動を展開している。なるほど、ローカルのつながりを生む人が、ローカルのつながりを取材し、編集するからこうなるのか、と感じる。

「ハウツーじゃないじゃん」と、ぼくは思った。しかし、読み進めていくうちに「案外、ハウツーだな」と感じてきた。なぜなら、ローカルメディアを創って売って、みたいなことができてしまう人のハウツーなんて、簡単には語れないし、「仕組み」ではなく「どの様にはじめて、つづけてきたのか」のストーリーに触れながら、パッションを持つことが重要なのだ。たぶん。

Amazonでの評価は高いが、コメントは少なめだ。しかし、自治体職員・地元企業の経営者や広報担当者といった、「推進する人」は案外コメントをくれない。しかもこの手の本としては、既に何回か刷りなおされている時点で「実は売れている」。

「別に推進はしてない人」であっても、ローカルの面白さと、それを表現する人々の思いや取組みは、さながら、「激レアさんを連れてきた。(テレビ朝日)」のローカルメディア特化版として読めなくもない。若林さん役(ツッコミ)は、各々が脳内で。

本書を読んだ後、自分の住んでいる地域以外のローカルメディアを見てみると、新たな発見があるかもしれない。
週末はどこかへ出掛けてみようかな。

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