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<海外ミステリ 感想>猟犬 ヨルン・リーエル・ホルスト

元警察官 ヨルン・リーエル・ホルストによる刑事ヴィスティングシリーズ。
今回、ヴィスティングは窮地に立たされる。
十七年前に誘拐殺人の容疑で逮捕した男が突然無実を主張した。
捜査の指揮をとったのはヴィスティング。
最高のチームと確かな証拠で逮捕したはずなのに何故・・・?
逮捕されたハーグルンは証拠が捏造されたと訴える。
証拠となった煙草の吸殻を何者かがハーグルンのものとすり替えたのだ。
『冤罪事件』として公表され、ヴィスティングは全責任を負わされ休職を命じられる。
納得がいかないヴィスティングは、休職直前に、警察署内から捜査資料を盗み出し、単独で事件を追う。
ヴィスティングは嫌な予感を覚えていた。
証拠を隠蔽したのは警察官ではないか。
ヴィスティングは、事件当時の鑑識員フィン、かつての相棒フランクと連絡をとり、あの時何が起こったのか徹底的に探り始める。
一方、父親に降りかかった災難に心を痛めていた娘リーネ。
彼女は、娘として、新聞記者として、父親の無実を証明するため奔走する。
過去の事件と現在の事件が繋がり、物語は思いもよらない展開に。

ヴィスティングシリーズの魅力は、何といっても登場人物の個性。
主人公のヴィスティングは、一見冴えない中年刑事だけど、捜査を指揮する統率力、頭の回転の速さ、何より貪欲に真実を追い求める姿勢は、まさに猟犬。だからといって、威圧感はなく、誰に対しても穏やかな姿勢を崩さない。加害者であっても、信頼関係を築き、じっくり取り調べを行う優秀な刑事。
一方、娘のリーネは、好奇心旺盛、批判精神旺盛の新聞記者。ヴィスティング曰く「この子には、事件を察知する独特の嗅覚が備わっている」
親子揃って猟犬。
今回、リーネはヴィスティングを救おうと、無理な取材を敢行し怪我をしてしまう。
そんな時も、即座に『新聞記者、賊に襲われる』と見出しを作り、自分が被害にあった事件さえ記事にしてしまう凄まじい記者魂プラス父親への愛。
休職を命じられたヴィスティングに代わり、国境を越え事件を追う。
”静”のヴィスティングと”動”のリーネ。
二人の視点が交錯し、ページを捲る手が止まらない。
かつての鑑識員フィンの熟練した技にうなり、リーネと仲間の新聞記者たちの尾行劇は手に汗握るスリリングな展開。
所々に、警察官はどのように事件や容疑者に向き合うべきか、も言及される。ヴィスティングの独白だが、元警察官ヨルン・リーエル・ホルストの願いも込められているように感じた。
今まで海外小説だった、という方にもお薦めしたい一冊。

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