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感想『俳優の演技術 映画監督が教える脚本の読み方 役の作り方』冨樫 森

映画やドラマが開始すると、俳優さんがインタビューを受ける。
私は、その記事を読むのが好きだ。
人がどのように架空の人物になるか興味がある。
「女優さんになりたい」なんてドリームは遥か昔に捨てたが、やはり、小説だけでなく、ドラマや映画など物語が大好きな人間は、作品の内容だけでなく演じている俳優も気になる存在。
よく『演技が上手い』『演技が下手』と評価されるが、私は『この人演技が上手い、下手』思ったことがない。
思うとすれば、『いい役を演じているのになんか好きになれない』『現実に存在したら確実に不快な思いをするのに何故か好き』『今まで目立たなかった脇役だけど、今、この人の表情に泣きそうになった』くらいだろうか。
あくまで私基準だが、一番目は役も演じている人も好きになれないかも。二番目はこの俳優さんが演じる役はどれも見てみたい、俳優個人ではなくこの俳優が演じた役は好きになる。三番目はこの俳優が気になったのでSNSフォローした。
感性の問題は言葉で表現するのが難しい。本当は好きな作品や俳優さんについて色々書きたいけど、書けない語彙力のなさに悲しさを覚える。
そもそも演技自体が感性で演じるので、理論なんて必要ないのでは?
と思っていたら大間違い。
冨樫映画監督が書かれたこの演技術の指南書は、自然な演技がどれだけ考え尽くされているんだ!と目からウロコ。
まず、俳優さんに必要なのは何か?
そりゃ、演技力でしょ?
違います。大切なのは台本の読解力。
台本の読解力のノウハウについてほぼ半分近く割かれている。このことからいかに大切なことかが伝わってるくるはず。
よくドラマや映画の公開に合わせてシナリオ本が発売されますが、私はこのシナリオ本が大の苦手。
本が好きなのは、会話文だけでなく、発した言葉の裏に隠された感情、感情に至るまでの経緯、その経緯はどのようなことがきっかけで生まれたのか、そしてそのきっかけについての思い、を全て文章で読んでみたいから。
ところがシナリオは会話の以外は、
『(少し笑って)そうね』
シーン『台所』。
え?これだけ?少し笑うって楽しそうに?寂しそうに?
台所のシーンってテーブルの上に何か載ってるの?
と頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされ、収拾がつかず、敬遠してきたシナリオ本。
俳優さんはどう演じてるのかいうと、ひたすらこの分かりずらいシナリオを読み解き、役の核を理解し、その核が出来た過程を想像し、役が抱えている外的葛藤(映画の最初の段階で分かる苦しみ)、内的葛藤(映画の終盤で分かることの多い苦しみ・にじみ出る切なさや悲しみはここから来ていることも)を想像する。
観てる側の想像を絶することをされてたんですね。尊敬。
台本にたくさん空白があるのは、俳優さんやスタッフさんが書きこむ為だったなんて知らなかった。この読み解きが最も大変で、演じる側と演出する側の理解が違えば、話し合い、修正し、、、場合によっては言い争いに発展したり、演じる側の『作り込み』がどうしても抜けなかったり、と大変な事態になる。

読み解きの後は、いかに感情を表現するか。
悲しい時は泣くから泣く練習?
その役作りを一人でやってしまったら、まさに一人芝居になってしまう。
だったらどうするか?芝居はチームワーク。その場で演出が変わることは日常茶飯事。台詞は棒読みで完璧に覚えて、その場に応じた芝居をする。
適当?いいえ。この臨機応変な対応は、脚本を完璧に読み込み、演じる役の核、一生を全て自分のものに吸収した上で成せる技。
他にも声の出し方、自意識をいかに消すか、など人間の動きや感情に関わる話が盛りだくさん。

この指南書は、俳優を目指す人だけではなく、ものづくりに関わる人、観る事が好きな人、これから何かを作ろうと思っている人全てに読んでもらいたい。
私達は、生きていく上で皆演技をしている。
俳優の研鑽方法は、想像力を鍛え、自身を振り返り、相手がどう反応するかによって、また想像力を鍛え・・・繰り返すことで、相手を知り、自身を磨く一助にもなるかもしれない。
まあ、私の想像力が人の十倍あり、反応が人の百倍鈍いからそう思うだけかもしれませんが。

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