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悪気なきジェンダーギャップを避けるために

こちらの記事の中で、ふと気になった言葉がありました。

実力を伴わない数合わせの女性登用には私も反対です。女性管理職を増やすには管理職になり得る能力と実績・経験のある女性が増えなくてはいけません。本来の資質に男女差がないのに結果的に差を生んでいるのは、先述したとおり、鍛えられる機会が女性は少ないからです。性別にかかわらず、重要な仕事を任せることが第一歩です」

私が代表を務めるデザインカンファレンス Designship では、メインコンテンツを公募スピーカーとしており、その審査は毎年「独自性」「専門性」「発見性」という採択基準をもとにおこなわれていますが、当然それ以外にも審査委員会として考えざるをえない視点がいくつか存在します。

そのひとつが男女比率です。

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公募スピーカーとして選ばれた方々がほぼ男性……ということにならないように、あらかじめ「最低限達成したい男女比率」と「ベストの男女比率」をそれぞれ設定して、審査中のとあるフェーズでその男女比率に近づけるように性別を考慮して採択可否を決めています。

この審査方法は、ともすれば「この登壇者の方が本当は内容としては相応しいのに、男女比の問題で今回は採択できない……」という事象を起こしうるものです。

実際にそのような葛藤が以前ありました。

しかしながら、提出していただいた登壇概要だけで審査するというのも視点の狭い行為でありますし、カンファレンス全体を通しての年代・性別のバランス感がクオリティを醸成するのだとすると、男女比を考慮して審査をするのはいたって真っ当な行為だと私は考えています。

そのような思想で毎年カンファレンスをおこなっている私としては、先ほど引用した「実力を伴わない数合わせの女性登用には私も反対です。」の一文に、あたかも後ろ指を指されたかのように反応してしまいました。

誤解していただきたくないのですが、今までのすべての審査において決して「実力を伴っていない数合わせの女性登用」をしたとは微塵も思っておりません。

一方で、

・無意識化でそのような意思決定をしてしまっていないか?
・それを許容してしまう審査の仕組みになってしまっていないか?

ということを改めて考えさせられたのです。


悪気のないビジネスカンファレンス

先日、ビジネスカンファレンス「IVS」が女性アナウンサーを起用したという旨のプレスリリースが話題になっていました。

(以下の記事におけるまとめがわかりやすく、最も正しい言説であると私は感じておりますので、ぜひご一読ください。)

そのIVSの運営に携わっていた方が独立して運営していらっしゃる「ICC」というビジネスカンファレンスも、以前女性登壇者比率の件で物議を醸していました。

日本を代表するビジネスカンファレンスが立て続けにジェンダーに関する物議を醸してしまっているわけですが、両者ともに決して女性軽視思想があるわけではありません。

むしろ女性比率の少なさについて問題を認識しつつも、その解決アプローチをどうしたらいいか分からない、もしくは「男女の区別はせず、優秀な人を採択する」がそのアプローチだと勘違いしているだけ……ありていにいってしまうと、悪気がない

だからこそ私も、悪気がないままそのような偏った意思決定に加担していないかがとても怖いと感じます。

そうならないように、私は自分が立ち上げる組織(大規模でも小規模でも)の男女比率をとても気にしてきました。

数だけでみると、Designshipを運営している法人「一般社団法人デザインシップ」は、理事3人中1人、従業員3人中2人、運営チーム部門長5人中3人が生物学的に女性です。

直接的に狙ってそうしたわけではなく、設立時にもとより女性を理事として1人は入れたいと心に決めていたり、内輪にならないように自分の周りのコミュニティ以外の方を運営にいれたり、ダイバーシティを常に意識した行動の現れであるとも自負しております。

つまり、数合わせとしてではなく、そもそもそのように指向しているからこそ、男女比が偏らない傾向にあるのです。

カンファレンス自体が男女の偏りをなくすためには、採択される登壇者だけでなく、運営メンバーの男女比率から是正していくべきではないでしょうか。

デザイナーという職種は、たとえばエンジニアなどに比べて女性の絶対数は業種として多いものの、国民皆が知っているような著名デザイナーはほぼ男性です。

女性デザイナーも実力があるような方なのにも関わらず、登壇や取材など「前」に出るのを嫌がる傾向にあると、実際に様々な著名デザイナーにキーノートセッションを依頼した身として思う次第です。

そんなデザイン業界の傾向もなんとかしなければいけないという想いが根幹にあるからこそ、Designship運営事務局のメンバーも3年間ずっと年代・性別についてダイバーシティを保てているのかもしれません。

ポーズちゃんととってるバージョン

(↑一部ですが、今年の運営メンバー)


スタートアップとジェンダー

ただ、早稲田大学の入山教授がこちらの記事でおっしゃっていることはごもっともだと感じており、私たちにはまだこの視点でのダイバーシティが不足しているなとも感じております。

これまで「男性×日本人」中心であった日本企業に、たとえば「女性×30代×日本人」だけを何人加えても、それはフォルトラインを高めるだけの結果になってしまいます。しかし、もしここに、さらに「女性×50代×日本人」や「アジア人×男性」、あるいは「欧米人×女性×40代」など、色々なデモグラフィーの「次元」の人々を加えていけば、結果として組織内でのフォルトラインは減っていくことが予想できます。
すなわち、女性や外国人の登用など「デモグラフィー型の人材多様性」を進めるならば、中途半端にやるのではなく、徹底的に複数次元でダイバーシティを進めるべき、ということです。

このような次元でダイバーシティを考えるのは非常に難しいことであり、特に私が普段から接する「スタートアップ」の企業たちにとっては「大事なのはわかるけど、そんなこと考えている余裕はない」というのが実際本音なところが多いでしょう。

成功するために、休みという概念だとか、労働基準法に厳密にのっとるだとか、リスクのない安定した成長への道だとか、あらゆるものを捨てて大成功を勝ち取る指向性のあるスタートアップにとって、その観点は初期であればあるほど「勇気をもって捨てる」もののひとつであると考えてしまいがちです。

しかしながら、初期からでも入山教授のいうところの「複数次元でダイバーシティ」を実現するよう意識して組織を編成していくと、結果的に組織内の軋轢が弱まり、あらゆるバイアスも削れ、意思決定の質が高くなるのではないでしょうか。

私の経験上からも「スタートアップとは意思決定」ですので、その質を向上させるためであれば、ダイバーシティ問題に関して、他の何よりも優先してとりかかるべき問題なのではないかと感じる次第です。

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