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【1】中庸化と節目のデザイン

2016年にイギリスが国民投票によりEUを離脱することが決まり、地域経済格差などによるアメリカの分断をきっかけにトランプ大統領が誕生、これによるアメリカと中国の関係性の悪化が感染症研究機関の交流を遮断したことをきっかけにCovid-19の世界的な感染拡大に繋がったとの説もある。2022年にはロシアがウクライナに侵攻し、プーチンの戦争が始まった。これらが起こっている間にも、中東ではシリア情勢や北アフリカの不安定な経済状況により、ヨーロッパには多くの難民が押し寄せ、ドイツのメリケル政権は政治的判断を迫られ、任期を終えた。

国際報道を目にする度に「不完全都市/平山洋介・著」を読み返し、本来持っていた多様性と寛容性が都市から失われつつあると感じていた。”atelier HUGE”という名前は、多様性が重んじられる寛容な社会を目指すという思いから命名した名前だった。

能古島に拠点を構えているひとつの理由に、自然に恵まれた環境に身を置おきながら対岸の市街地を望み、10分の渡船で行き来のできる立地から生まれる「物理的に身を置くことによる客観性」がある。Covid-19の感染拡大をきっかけにその意識の解釈はさらに拡大した。

三密を回避するために知識労働者は市街地から郊外や既存集落に移住し、多様な生活を獲得した。同時に市街地での暮らしと郊外や既存集落での暮らしは異なり、高度に密集した市街地では多様な価値観を受け入れる寛容性を持っているが、流動性の低い郊外や既存集落では共同生活が強いられる上に私生活に干渉的で価値観は固定化している。

人口減少が特に顕著な地方都市は住環境維持が課題であり、リモートワークの拡大により働き方の幅が広がるのは地方都市にとって、一定の人口流入や既存産業と知識労働との交流が期待され、地域特有の文化や技術の維持発展が望める。

極度に密集した市街地は、価値観が同じくするもの同士で繋がり合えること、自分の居場所を確保できる孤独の保証がある。一方で隣近の人物像は掴みづらく、価値観の異なる者同士が密接する状況は時に軋轢を生んでいる。所得の格差はそのまま暮らしと直結し、豊かさは平等ではない。物理的な都市はその意味を失い、「不完全都市」へと突き進む。

情報ネットワークが均一に広がる社会で、多様化する価値と自分にあった居場所を見つけることが一見簡単になったように見える一方、SNSをはじめとした高度なネットワーク社会は階層化した社会を視覚化・顕在化させる要因ともなっている。地域的・場所的特性と個人を最大限尊重できる寛容な社会を目指す上で、中庸(ちゅうよう)という言葉に巡り合った。物理的な都市はもはや都市ではなく、都市という状況を創り出す方が現実的に思える。

中庸とは、”考え方・行動などが一つの立場に偏らず中正であること。過不足なく、極端に走らないこと。また、そのさま。”(大辞林/三省堂)という意味がある。殺伐とした世界の中で中庸を目標として掲げ、過去の作品を振り返り捉えた時、的確な言葉として行き着いたのが「節目のデザイン」である。


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