創作エッセイ(3)プロット~箱書き~本文
プロット~箱書き~本文(小説・シナリオ)
自分流の小説の書き方をまとめてみる。実は近々講師を務める講座のためのメモでもある。
プロットの役割
自分にとってプロットは、これから構想する作品のための準備メモから始まる。
・書きたい描きたいシーンやキャラクター
・そのためのストーリー、物語の筋
・そのための舞台や状況
・ネタになるエピソード
これをまとめていく内に、キャラ同士の相関関係や、因果関係が出来てきてドラマらしきモノの土台が見えてくる。
例として、自分の作品「92'ナゴヤ・アンダーグラウンド」のプロットの一部を上げる。
以下引用----------
プロット
ハードボイルドミステリー 仮題「ナゴヤ・アンダーグラウンド」
2022/4/11より企画 2022/5/10 連載決まる
・話題の本ドットコム 2022/7/31
(舞台) 一九九二年名古屋市。バブル経済崩壊直後。
..アドプランニング・遊
飲食業・風俗業を主客にした広告代理店。本社名古屋市中区丸の内三、水道協会ビル、岐阜支社岐阜市柳ヶ瀬商店街。社員数20名。
..中部新聞
中日新聞がモデル。(以下略)
(登場人物)
..久利 風俗業専門の広告代理店アドプランニング・遊の営業。大学受験、就活などすべてに失敗した負け犬。
..都倉 県警の防犯課刑事。久利の大学の同期・少林寺拳法部。(以下略)
(時代と社会)
..主な出来事
尾崎豊死去 きんさんぎんさん 第二土曜休校開始 トイザらス上陸 パジェロ クレしん セーラームーン 浜田省吾「悲しみは雪のように」 GAO「サヨナラ」 電波少年 米米クラブ 大卒186900円
マハラジャナゴヤ ディスコブーム沈静化の予感 暴対法(91年5月)
オレンジ共済(以下略)
(ドラマ)
..主人公は、失恋や失敗を通して、劣等感を克服し自己肯定感(諦観)を得る。
..全体を通す一本の筋
後輩・山村がパパイヤ共済という詐欺事件に関わりそうになる話。
...新しい共済組合の案件発生
...共済組合理事・大友との交友に立ち会う 彼の背後に王道会忍び寄る
...大友の立候補と選挙広告 やばさを知る
...パパイヤ共済との関係を絶つことに成功
(事件 エピソード)
..1
・ショッキングな集金風景から始まる。主人公は社内でも難儀な回収を任される強行班的存在。
・広告料金未払いのママの依頼で、店の金を持って逃げた若いホステスを追う。
・デート嬢が店を離れて一本釣りを始める。テレクラのブーム。会社の後輩・山村がテレクラにはまっている。
また、大口の広告案件をアド中部から紹介され山村が担当する。
・ライター的案件を任されてクライアントから賞賛される。
..2
・回収風景から始まる
・キャバ嬢になった中学の時の少女と再会。路上ミュージシャンと同棲している。覚醒剤取引に利用された彼を救う。ほろ苦い別れ。(以下略)
..キャラの配置と意味づけ
山村は業界に入ったばかりの久利。 翔は、営業トークで人を操る面白さに目覚めた営業としての久利を投影したキャラ。久利がそんな自分への気持ちを確認する媒介とする。(以下2エピソード略)
..以下は各エピソードに分散して配置
..底辺代理店の集金エレジー
..底辺広告業の日常
..車ヒエラルキーの名古屋
..じゃぱゆきさん フィリピーナの哀歓 プロダクションとか
..外人労働者、保見団地
..独身者軽視の風潮、
.底辺代理店エピソード
・各話の冒頭に持ってくる。駄目な客を相手にする駄目な代理店の駄目な営業
..フェイント訪問で回収 俺は強行班
..支店長の落とし方 心理戦得意な俺
..払えない床屋 怒号の回収 自己嫌悪もある
..ビデオレンタル店(記事広告1) ライター仕事楽しい
..開き直りの社長への啖呵回収 根はチンピラか 総務から注意 貸金業法改正
..選挙広告必勝法 言葉巧み
..ビデオレンタル店(記事広告2) 書くの楽しいやん!
..書ける営業さん もうちょっとやってみるかなこの仕事 エンディング
.各エピソードに当時のヒット曲のタイトルを使う
..悲しみは雪のように(浜田省吾)
..ゲット・バック・イン・ラブ(山下達郎)
..クリスマス・イブ(山下達郎)
..サヨナラ(GAO)
..SAY YES(チャゲ&アスカ)
..約束の橋(佐野元春)
..when I look into your eye(Fire House)
..世界で一番熱い夏(プリンセス・プリンセス)
..アローン(ハート)
.各話の構成
..導入 久利のえげつない回収エピソード、底辺広告マンの日常
..事件と出会う
..証人1
..証人2
..パパイヤ共済関係の伏線
..事件の全貌
..解決のエピソード
..エンディングは久利の成長の兆し
以上引用----------
元々作品執筆の動機は、ドラマシリーズのような感覚の物語が描きたい、だった。
自分のよく知っている広告業界とバブル末期の時代で、自分が若かった頃の話が書きたかったわけだ。そこで、プロットをまとめていくうちに、使うべきエピソード、活かすべき時代背景などが顕在化してくる。
同時に、主人公の当時のモヤモヤとした気持ちの原因がわかってくる。そして、どのようにその気持ちに落とし前が着いたのかが見えてくる。物語に事件の経過とともに、主人公の気持ちが落ち着く先が見えてくるわけだ。
そして、同時に、この時代のお笑いバラエティ番組の「いじり」を模倣する「生真面目で不器用なキャラ」に対する蔑視や嘲笑に感じていた社会の同調圧力などに対する批判的な視線を描けることに気づいた。
私にとって、プロットをまとめる真の目的は、この物語に内在する主題(テーマ)に気づくことなのだ。
箱書きの役割
箱書きは、映画シナリオ用語で、シーン毎にその内容を一枚のカードにまとめたもの。その順番や並びを検討したり、執筆に当たっては複数のライターにシーン毎に投げることもできる。物語情報を作者の脳内だけでなく、ライター間で共有するための手法でもある。
前述「92'ナゴヤ・アンダーグラウンド」の第一話の箱書きを例に挙げる。
以下引用----------
第一話 「世界で一番熱い夏」
.錦三丁目の夜
..大型のレストラン・ビストロ・ルビー
..入り口
社長は不在とのことで、日を改めますと挨拶をして出てくる。未収の状況など後輩の山村との会話で。出た途端、隣のビルの喫茶店に入り「さあ、時間差攻撃だ」と。
..入り口
二人の再訪に驚く店員と社長。久利はポケットから手帳を出して「入り口で落としちゃいまして、拾いに戻ったら偶然店長いらしたんで」と邪悪な笑顔。無事回収。山村の尊敬。数年前、サラ金回収業者の回収セミナー受けたことある久利は社内の言わば強行班。
底辺広告代理店の営業マン。名門校の落ちこぼれで、広告に対する夢も破れ、他の社員が嫌がる夜の仕事の広告営業で日々の糧を得ているチンピラだ。広告マンのヤクザな日常。
.スナック・ノンノン
..店内
求人広告料の未払いのスナック・ノンノンのママ和泉和子から、店の金を持ち逃げしたホステスを探してくれと頼まれる。そうしたら払うと。
逃げたのはチーママのミチコちゃん。同僚のメグから、「妹のことで急にお金がいるみたい」と。
.ミチコのアパート
..廊下
高校生の男子悠紀夫が部屋の前に。ミチコの妹・ルイに会いに来たが誰もいないとのこと。
声を聞きつけた隣の住人が「見るからにヤクザっぽい連中に連れて行かれた」と。
そこに車がやってきて当のミチコが放り出される。車は環境保護のマークを付けたエバーグリーン社のワゴンだった。
.アパート前の路上
ミチコは「妹ルイがまだ解放されないお金がいる」と。詳しく聞こうとするが、悠紀夫の前では言えなさそう。
.スナック・ノンノン
入り口には準備中の札
..店内奥のBOX席
デートクラブでバイトしていた妹のルイが、店を通さずにテレクラ客を一本釣りしたことでもめていることを知る。ミチコとルイは親の暴力から逃げて二人暮らしだった。王道会の噂聞く。
.公衆電話ボックス
県警の都築からエバーグリーンが指定暴力団王道会の企業舎弟だと知る。県警内に母校の体育会OB多そう。
.栄三丁目にあるライオンズマンション
四階の角部屋がデートクラブの事務所になっている。そこへ出かけた久利は、店長の金田とにらみ合いになる。当のルイは奥の部屋であっけらかんとTVゲーム「星のカービイ」をやっている。
クラブは、正式にテレクラと契約したという。向こうも電話が鳴らないと商売にならないし。
ここへ来ることは県警の刑事に相談したと告げて金田を脅し、無事ルイを手に入れた久利はノンノンで待つミチコとママの元へ。広告費も無事回収。
.テレクラ・リンリン
ルイが教えてくれたテレクラでデートクラブとの阿吽の関係をネタに広告費用と称して現金ゆすり取る。
.リンリンの外
金田が車で待っている。半ば拉致の様にして久利は王道会事務所へ連れていかれる。
.王道会事務所
巧妙な暴行を受ける。主人公のタフさ。そこにやってきた幹部の近藤、主人公を見て驚く。母校応援団のOBで同期。彼に免じて開放されるが、この世界に深入りするなと脅される。
三流私大の母校は県警や市役所など地方公務員が多いが、同時に体育会には任侠界に転じた奴も多いのだった。三流私大の哀歓。
.スナック・ノンノン
ミチコの感謝の気持ち描写。久利に好意抱いた様子。
ルイはデートクラブを辞めた。
「もっといい仕事見つけたのよ」
「もっといい仕事?店のバイトは高校生じゃ無理だろう」と聞くと、
「違うよ、今池のマニアなお店がね、古い下着を買ってくれるのよ!」
ブルセラ時代の幕開けだった。
.ビデオレンタル・ルック
店長との話から、記事広告書くことになる。面白そう。
以上引用----------
一読して直ぐ判ると思うが、シナリオの一歩手前の状態である。
場所、状況、登場人物、読者に伝える内容、等がメモしてある。この段階でシーンの順番を前後させたり、足りないシーンの追加や、冗長になるシーンの削除などを試行するのだ。 そして、いよいよ本文にとりかかる。
本文(小説、シナリオ)の執筆
ここで箱書きの1シーンが、どのように本文になるかを例示する。
まずシナリオの場合
以下引用----------
(箱書き)
..入り口
社長は不在とのことで、日を改めますと挨拶をして出てくる。未収の状況など後輩の山村との会話で。出た途端、隣のビルの喫茶店に入り「さあ、時間差攻撃だ」と。
↓
(シナリオ)
.中区錦三丁目の高級レストラン・ビストロ・ルビーを運営する有限会社タチバナの事務室
..入り口
カウンターを挟んで対峙する事務の男と久利・山村
男「社長はまだ戻っておりません。日を改めてまた来てくれって言われてます」
久利「困りましたねえ。今日がお支払い日でしょう。うちは本来、先月いただく予定だったんですよ、御社の広告費」
その隣では後輩社員の山村が唇をかみしめて立っている。
十畳ほどの小さな事務室。入り口のカウンターの向こうには四台の事務机の島。そこに座る女事務員が終業の準備をしながら、薄ら笑いを浮かべて久利達を見ている。出入り業者を見下す中小企業の社員によくいるタイプ。
以上引用----------
構成要素は「ト書き」と「会話」である。
このシナリオの「ト書き」は「説明」である。
次に小説形式の場合
以下引用----------
(箱書き)
..入り口
社長は不在とのことで、日を改めますと挨拶をして出てくる。未収の状況など後輩の山村との会話で。出た途端、隣のビルの喫茶店に入り「さあ、時間差攻撃だ」と。
↓
(小説)
「社長はまだ戻っておりません。日を改めてまた来てくれって言われてます」
カウンターに立った事務の男が、もう勘弁してくれよという表情で、そう繰り返した。
額に汗が浮かんでいるのは、暑さのせいだけでもないだろう。
「困りましたねえ。今日がお支払い日でしょう。うちは本来、先月いただく予定だったんですよ、御社の広告費」
久利は、困ったような表情を作って言った。その隣では後輩社員の山村が唇をかみしめて立っている。
名古屋市中区錦三丁目の高級レストラン・ビストロ・ルビーを運営する有限会社タチバナの事務室だった。四階建てビルの一階と二階がルビーの店舗で三階が従業員の控室、そして四階がこの事務室なのだ。
十畳ほどの小さな事務室で、入り口のカウンターの向こうには四台の事務机が島を作っていた。そこに座る女事務員が終業の準備をしながら、薄ら笑いを浮かべて久利達を見ている。出入り業者を見下す中小企業の社員によくいるタイプだ。
タバコのヤニで茶色く曇った窓ガラスの外には、日没間近の薄暮の空が広がり、街の随所で点り始めたネオンサインの光が滲んで見えた。まるで涙で潤んだ目で見ているかのようだ。さしずめ、この涙は担当・山村のものに違いない。
今日は月末の支払日で、出入りの業者が次々と集金を済ませて帰っていく中、久利の勤務先・アドプランニング遊の扱った求人広告費の小切手だけが用意されていなかったのだのだ。
以上引用----------
構成要素は「地の文」と「会話」である。
この小説の「地の文」は「説明」と「描写」である。さらにこの「描写」は、「情景」と「心象」、さらに「客観」とキャラ毎の「主観」にも細分化される。
小さな作業の積み重ねが長編を生む
この作業の積み重ねで物語は生まれる。これらの作業を、すべてを脳内で済ませる才能もある。
だが、そのような才能がなくとも、時間さえかければ長編作品は書けるのだ。
私には際立った才能もなく、商業的にも非力な独立系作家であるが、この地道な作業が苦痛でなく、わくわくするほど楽しい。
これこそが私の「才」なのかもしれない。
この一文が創作にいそしむ人たちの一助になればと思う。
文中で参考に挙げた作品「92’ナゴヤ・アンダーグラウンド」は下記リンク先。
https://note.com/hajime_kuri/n/n0b2aadfdf280
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