映画レビュー(28)「おくりびと」

(2009年 04月 16日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

 実は、この作品が米アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した2月23日の二週間後に、自分の父親が亡くなった。先日DVDで鑑賞した際は、自分の父を納棺した記憶がまだ新しいうちというか、まだ忌明けもすまないうちだったわけだ。
 特に印象的だったのは、化粧を施した故人が、遺族に与える影響を描いたシーン。私も衰えた父の顔が、健康だったころの顔に戻っていくのを見てちょっぴり神妙な気分になったのであった。

 考えてみれば、「死」の問題は故人ではなく残された遺族の心の問題なのである。死生観とは、いかに死ぬかではなく、死ぬまでいかに生きるかの問題なのである。
 この映画では、「死」と「死者」に対する距離の取り方が絶妙である。役者たちの演技も抑制が効いていて好ましい。滝田監督らしいユーモアもよかった。個人的には、「死」こそユーモアで語らねばならないと思うからである。
 父の死と同じタイミングでこの映画に出会えたことを感謝したい。
 この作品は、感動や涙を強制する底の浅い映画ではないから、そんな映画を警戒している人も安心して見て欲しい。
おくりびと [DVD]

(2023/10/16 追記)
 死とは死んだ当人より、残された者の問題である、ということを気づかせてくれた映画だった。この死は親族だけではない。
 高校時代の友人が大学進学後、命を絶った。その葬儀の記憶は、今でも私の中で深い傷跡のように残っており、自分の死生観に大きな影響を与えている。

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